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工場間輸送への「通い箱」利用の効果をトレーサビリティが高める【第18回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年9月19日

物流現場で繰り返し使用する「通い箱(リターナブルコンテナ)」が、包装の標準化や梱包業務の簡素化を実現するためのツールとして注目されています。米国の研究では、通い箱と、その管理システムの導入により積載率などの向上を図り、物流コストを40%削減に成功した事例などが報告されています。前回、定温輸送のトレーサビリティを紹介しましたが、今回は通い箱におけるトレーサビリティの重要性を説明します。

 「通い箱」は、工場間や取引先間での輸送において、繰り返し利用する箱状の容器です。「リターナブルコンテナ」とも呼びます。通い箱を使えば、包装コストの削減や、積載率・保管効率・作業効率の向上、関連経費の節約を同時に推進できます。

プラダン製の通い箱は繰り返し利用や折り畳みが可能

 ワンウェイ(使い捨て)の段ボール箱の場合、開梱作業が不可欠なうえに廃棄処分にする必要があります。これに対し通い箱なら、その処分工程が不要になります。さらに通い箱のサイズを標準化すれば、トラック輸送における積載率の向上につながります。

 取扱貨物の荷姿が特殊で容器内に複雑な仕切りが必要になる場合も通い箱は有用です。ワンウエイの段ボール箱では梱包に手間とコストがかかるのに対し、通い箱なら梱包作業時間を短縮・合理化が図れます。包装材の廃棄物発生を最小限に抑制するために、国際間で繰り返し使用できる通い箱を導入している企業もあります。

 通い箱の素材としては、プラスチック段ボール(プラダン)が主流になっています。段ボール箱は一般に2~5往復程度しか耐えられないのに対し、プラダン製の通い箱なら、数百回あるいは、それ以上の繰り返し利用が可能になります。

 しかもコンパクトに折りたためるため、空き箱の回収コストを大幅に抑えられます。例えば、折り畳んだ通い箱9個を元の形の1ケースに収納すれば、10の通い箱を1セットとして回収できます。

 これらのメリットから通い箱は、部品メーカーと組み立てメーカーの間で行われる「調達物流」や「生産物流」などに利用されています。生産物流では、製品以外の必需品のやり取りにも用いられています。工具や書類などを通い箱に入れて工場間を輸送します。製造領域だけでなく、小売業における「販売物流」にも活用されています。商品を段ボール箱に梱包せず、通い箱を使って小売店舗に納品するのです。

通い箱は配送先での未返却や紛失が起こるケースが多い

 ただし、通い箱の導入にあたっては課題もあります。通い箱が納品先でしっかり管理されないと返却・回収に時間がかかったり紛失されてしまったりするケースが後を絶たないことです。出荷先での回収率が悪くなり紛失率が高くなれば、通い箱を追加購入する必要が出てくるため、そのコストが大きな負担になることがあります(図1)。

図1:通い箱導入の効果と課題

 例えば部品メーカーA社は、組み立てメーカーの生産計画に基づく部品アイテムと数量を指定納期に合わせて、自社のパーツセンターから専用の通い箱を使って出荷しています。出荷先は複数あり、出荷するアイテム/数量は拠点ごとに異なります。

 出荷アイテムや出荷数量は物流部が管理していました。ですが「どの通い箱で、どれくらいの数量を、どの工場に運んでいたか」といった個品管理はできていませんでした。使用する通い箱についても、「どれくらいの頻度で使用されているのか」「これまでの出荷履歴や返却履歴が知りたい」という声はあってもニーズとして対処できていませんでした。

 他方、組み立て工場では、納入された部品をピックアップした後、空の通い箱は組み立て工場からパーツセンターへの「ついで便」で返却していました。ここでも返却は管理されておらず、未返却や紛失による行方不明になる通い箱も相当数、発生していました。結果としてA社は、回収漏れによる通い箱の不足分を適時、買い増して補っておく必要に迫られ、そのためのコストも、かなりの額に上りました。

 この事例のように、通い箱自体は段ボール箱などによる梱包に比べ、コスト面の負荷が小さく、導入メリットを享受できるものの、紛失や管理・回収にコストがかかるのです。せっかく通い箱を導入し梱包廃棄物の削減に成功しても、紛失リスクに悩まされては逆に大きな負担増になるのです。