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- 富士フイルム流・ブロックチェーン技術を用いた情報基盤「DTPF」の作り方
情報基盤「DTPF」を内製する理由と実現方法【第2回】
前回、富士フイルムグループが志向するのは、「現場部門からのカスタマイズ要望に全て応えることは物理的に難しい。だからこそDTPFでは、現場のニーズに合わせて現場部門が自らの手でカスタマイズできる仕様」だと説明した。そのためDTPFの内製は、イメージング・インフォマティクスラボと現場部門が一体になって取り組んでいる。
現場部門と一体になった内製を実現するために、イメージング・インフォマティクスラボでは、現場部門との橋渡し役を担う「DXリサーチャー」と呼ぶ役割を重視している。現場部門での業務分析に基づき、DTPFの導入で実現すべき変革の姿を提示するとともに、シミュレーションにより想定される導入効果を定量的に明らかにする。
さらに変革の初動を支援する「現場部門の伴走役」として、DTPF上に現場部門の変革課題を解決する業務アプリケーションを、ローコード開発ツールを用いてテンプレートとして構築する。アプリケーションを使っていく中で新たに生じた要望については、現場部門自らがUI(User Interface)や独自機能を追加できる仕様にすることで、持続的でフレキシブルなDXの実現を目指す。
社外との“他流試合”を経験しDTPFの進化につなげる
内製を選択しながらも自社に閉じた取り組みにこだわらないことも、DTPF開発の特徴だと言える。民間シンクタンクや公的機関、学術機関などと常にオープンに交流し議論を交わす、いわゆる“他流試合”を積極的に経験することで、DTPFの進化につなげている。
学術機関との連携例としては、2023年2~3月に実施した慶應義塾大学SFC研究所・データアーキテクチャラボとの共同研究が挙げられる。当社サプライチェーンにおけるサプライヤー企業とのDTPFを介した情報連携の状況を考察した上で、企業間連携システムのトラストを担保するための要件や要素技術を抽出した。
さらに、DTPFの普及に向けて、クローズドで進める領域とオープンで進める領域を適切に判断することを基本にした普及戦略も検討した。SFC研究所には学術機関としての公平・中立の立ち位置から、ブロックチェーンに関する知見を基にDTPFのあるべき姿を検証していただき、DTPFの進化に向けた有益な知見を得られた。
公的機関との連携例には、経済産業省が推進する「アジアDX促進事業」「インド太平洋地域サプライチェーン強靭化事業」への採択がある。当社がメディカルシステム事業として、インドなどの新興国で展開する健診センター「NURA(ニューラ)」を起点に、受診者の健診データを、DTPFを通じて国や地域を越えて安全に共有するための仕組みの構築・実証を目的とした取り組みだ。新興国の社会課題解決に貢献する活動として評価され採択された。
これらの事業を通じて、トラストをしっかりと担保したDTPFが、海外を含めて広く定着し、ヘルスケア分野をはじめとした、さまざまな分野における社会課題の解決に寄与できることを目指している。
開発メンバーの多様性が内製化のQCDを高めている
こうした内製を支える原資は開発に携わるメンバーの力だ。DTPFの開発機能を受け持つイメージング・インフォマティクスラボは開設当初からスモールスタートを基本にしてきた。DTPFに関しても、当初は数人規模の研究活動から着手し、用途開発の進展などに伴いメンバーを拡大してきた。
ラボのメンバーの特徴を表すキーワードは“多様性”である。社内公募などを通じて集まったグループ各社の出身者に加え、社外のIT企業やメーカーなどで経験を積んだ人材が集まっている。
また一言で開発者と言っても、デジタル分野が得意な人材もいれば、化学分野でフラスコを振っていた人材もいる。社外との接点を作ることに長けた人材もいれば、セキュリティに精通した人材もいる。そうしたメンバーがオープンに議論を交わし、強みを生かし合うことが、開発の推進力を生んでいる。
情報に関わる分野を指す「インフォマティクス」は、それ単体ではビジネスに大きなインパクトを与えられない。しかし、「マテリアルズインフォマティクス」「プロセスインフォマティクス」といった形で、企業活動に関わる物事と掛け合わせることで、その価値を高められる。事業展開に必要なインフォマティクスを1つでも多く構想し形にするためには、例えば、当社のメディカルシステム事業であれば、医療とITの両分野に精通する「ハイブリッド人材」が欠かせない。
イメージング・インフォマティクスラボでは、グループ全体の経営課題や社会全体の動向を踏まえながら、適切かつ先進的な開発テーマを設定することで、開発者のモチベーションの維持・向上につなげている。情報処理技術者資格など専門資格の取得を奨励し、各人のレベルアップをサポートしている。
DTPFは既に、サプライチェーンやヘルスケアなど複数分野での本格運用が始まりつつある。内製開発によるQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)が着実に高まった結果だと捉えている。こうした実績を背景に、開発メンバーのモチベーションは総じて高く、社内外からの新規人材の獲得にも優位に働いている。
国内製造業におけるITシステムの開発では、社外に依存せず自社単独で開発する割合が欧米に比べて低く、それが製品/サービスの開発効率が高まらない一因になっていると指摘されている。DTPFにおける内製化の挑戦が、国内製造業のDX推進に不可欠なITシステムの開発における新たな選択肢の提示につながれば幸いだ。
次回は、サプライチェーン分野におけるDTPFの活用事例について説明する。
杉本 征剛(すぎもと・せいごう)
富士フイルムホールディングス 執行役員 CDO ICT戦略部長 兼 イメージング・インフォマティクスラボ長。1989年九州大学大学院 総合理工学研究所 情報システム学専攻修了後、富士写真フイルム(現富士フイルム)入社。システム開発分野、AI/ICT研究分野に従事し、2019年ICT戦略推進室長(現ICT戦略部長)およびインフォマティクス研究所長(現イメージング・インフォマティクスラボ長)に就任。2020年4月より現職。
高橋 正道(たかはし・まさみち)
富士フイルム ICT戦略部 イメージング・インフォマティクスラボ 統括マネージャー。1999年慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科修了後、富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション)入社。2005〜2007年MIT Sloan School of Management, Center for Collective Intelligence訪問研究員。2022年富士フイルムに移籍。ブロックチェーン技術の応用研究に従事。