- Column
- 製造DXの“今とこれから” 「Industrial Transformation Day 2024」より
ソフトウェア化が進む製造業には従来の“当たり前”を疑う発想の転換が重要に
「Industrial Transformation Day 2024」より、アーサー・ディ・リトル・ジャパン プリンシパル 濱田 研一 氏
製造業はこれまでもデジタル技術の導入により進化を遂げてきた。そして今、直面しているのがソフトウェア化であり、ビジネスに劇的な変化を起こしている。アーサー・ディ・リトル・ジャパン プリンシパル 濱田 研一 氏が「Industrial Transformation Day 2024」(主催:DIGITAL X、2024年3月)の基調講演に登壇し、自動車業界を中心とした製造業において、ソフトウェア時代の価値創造に向けたアジャイル開発の重要性を解説した。
「日本の製造業は『アジャイル(俊敏)開発において成果を出せていない』と言われている。だが、アジャイルの起源は、コストと品質を全員が継続的に改善し続けるトヨタ自動車の生産方式にある。アジャイル開発は米シリコンバレーの企業に限ったフレームワークではなく、日本企業でも実現は難しくないはずだ」――。アーサー・ディ・リトル・ジャパン プリンシパルの濱田 研一 氏は、こう指摘する(写真1)。
ニーズの高まりが個別最適から全体最適へのシフトを求める
1990年代から2010年代にかけて、製造業の開発現場には多様なコンピューターやデジタル技術が導入されてきた。「最大の進化をもたらしたのは『試作』にある」と濱田氏はみる。試験的にものを作って実験し、確認するプロセスがデジタルシミュレーションにより代替された。例えば自動車メーカーは、「シミュレーションにより試作車の数を減らし手戻りを防ぐことで、開発期間を短縮した」(同)
当時、自動車の開発・製造は、エンジンやトランスミッション、タイヤなどを個別に開発し、それらの性能を足し合わせて能力を高める「個別最適の積み上げで成り立っていた」(濱田氏)。しかし、「燃費性能ニーズが加速度的に高まり、個別最適による対応は限界を迎え、全体最適の考え方にシフトすると同時に、そこでもデジタルシミュレーションが活用された」(同)という。
結果、「あいまいな顧客の要求を具現化し部品の要求仕様を作成する性能・機能設計や、抽象度の高い要求仕様を満たす詳細設計を含め、上流の抽象から下流の具象までをデジタルでつなぎ、技術のトレーサビリティ(追跡可能性)を確保する取り組みが進んでいった」(濱田氏)
そして現在は、「複数種の車両を一括で企画し、統合したプラットフォーム(車体)のもとで共有部品を開発し、デジタルシミュレーションを実施することが一般になり、車両単体ではなく、派生する複数車種の開発スピードが飛躍的に高まっている」と濱田氏は説明する。
その自動車業界が近年、提唱するのが「SDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア定義車両)の概念だ。外部との双方向通信機能を使って自動車の制御ソフトウェアを更新し、販売後も機能を増やしたり、性能を高めたりを可能にするフレームワークである。つまり、車両開発における部品の中にソフトウェア部品が占める割合が高まってきているわけだ。
SDVがもたらすであろうゲームチェンジについて濱田氏は、携帯電話業界で起きた変化を例に説明する(図1の右)。
携帯電話の第1世代では、端末メーカーがそれぞれの規格で電話機を作り、デジタル圧縮技術で音声を変換してやり取りしていた。第2世代では、NTTドコモが開発した「i-mode」の登場により、ミドルウェアやブラウザの統一規格が定められた。
そして第3世代として登場したのが米Appleの「iPhone」である。さまざまなソフトウェアベンダーを巻き込む垂直統合型のUX(User Experience:顧客体験)を組み込み、従来の端末メーカーやキャリアの存在価値を奪い取っていく。