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  • 製造DXの“今とこれから” 「Industrial Transformation Day 2024」より

現場の改善活動とデジタルを融合し組織の対応力を高める「スマートファクトリー2.0」

「Industrial Transformation Day 2024」より、デロイト トーマツ コンサルティングの芳賀 圭吾 氏

齋藤 公二
2024年5月1日

EU(欧州連合)では、Industry4.0の次世代の概念である「Industry5.0」の議論が進んでいる。“人間中心”へのコンセプトの追加・拡張が主題だ。デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員の芳賀 圭吾 氏が「Industrial Transformation Day 2024」(主催:DIGITAL X、2024年3月)に登壇し、Industry5.0に呼応して同社が提唱する「スマートファクトリー2.0」の概念と、その実行方法について解説した。

 「社会構造が大きく変化する中で日本の製造業が競争力を発揮するためには、従来の効率化・自動化を中心としたスマートファクトリーへの取り組みに加え、組織としての問題解決や改善、イノベーションのサイクルを迅速化・深化させることが不可欠だ」−−。デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員の芳賀 圭吾 氏はこう指摘する(写真1)。

写真1:デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員の芳賀 圭吾 氏

省力化・自動化で業務が変化するなか現場には“停滞感”が漂う

 製造業は今、大きな構造変化に直面している。労働力人口の減少はもとより、カーボンニュートラルやESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)、ブロック経済化に伴う経済安全保障への対応、新しいサプライチェーンの構築など、「これまでになく変化への対応力が求められている」(芳賀氏)

 そのため製造各社はスマートファクトリーの実現などDX(デジタルフォーメーション)に取り組んでいる。だが芳賀氏は、「これまでの取り組みを『スマートファクトリー1.0』とすれば、その中心はルーチン業務の自動化・省力化を進める取り組みだった」と指摘する(図1)。

図1:これまでの「スマートファクトリー1.0」では、サプライチェーンの省力化と業務の自動化を軸にした取り組みを進めてきた

 具体的には、労働力不足への危機感から、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI(人工知能)、ロボティクスといったデジタル技術をキャッチアップし、「業務のスピードアップと工数の削減、コスト競争力の向上を実現する取り組みが主流だった」(芳賀氏)。だが芳賀氏は、海外は既に次の段階に進み出しているとして、こう説明する。

 「欧米や中国などの競合企業は、日本以上に最先端のデジタル技術をフルに活用し、業務品質やスピードを高めている。そのうえで事業環境の変化に対し、デジタルツインやAI、シミュレーションなどの技術により生産技術やオペレーションの革新を不断に実行することで“ゲームチェンジャー”として新しい市場を切り開くケースもある。日本企業は強みとしてきた領域でも追い付かれ、追い越されているのが実状だ」。

 「現場レベルでも課題は多い」と芳賀氏は指摘する。「ルーチン業務が自動化・整流化され、人が携わる業務の大半は非定型の問題解決、つまり企画業務になってきている。業務サイクルはスピードアップし担当者も減っているが、以前より複雑な問題が増えており1人当たりの業務量は増えている」(同)という。

 業務内容は変わっているにもかかわらず管理業務や調整業務だけが増える中、「改善を進めても、若い人が定着しなかったり、生き生きとした職場にならなかったりしているのではないか。そんな停滞感が現場には漂っている」と芳賀氏は危惧する。

 そこで重要視されているのが「人間中心のデジタル活用だ」と芳賀氏は指摘する。例えば、欧州の「Industry 5.0」は、AIやIoTのテクノロジーを活用した産業変革に加えて“人間中心”をコンセプトに掲げ持続可能な産業への回復を目指す。中国の国家方針「製造2025」は、イノベーション駆動や品質優先といったキーワードに並び“人材本位”を挙げる。

 日本が提唱する「Society 5.0」は、経済発展と社会的課題の解決を両立する“人間中心の社会”をうたっている。芳賀氏は「日本の製造業も、自らの強みとデジタルを融合した製造DX/スマートファクトリーの新しい段階を確立し、発信する必要がある」と強調する。