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  • 製造DXの“今とこれから” 「Industrial Transformation Day 2024」より

製造DXの本質は現場のデータを活用しITシステムを変革し続けることにある

「Industrial Transformation Day 2024」より、T Project 代表取締役の荒谷 茂伸 氏

2024年5月7日

 製造業におけるDXに対しても荒谷氏は、「経済産業省の定義を含め、概念的に語られることが多い。だがDXの本質は、ITシステムを改変・追加し続けることで、新たな価値を創造するところにある」と強調する。これまでのITシステムは、「一度導入すれば、そのまま数年単位で使い続けるのが一般的だった」(同)

 そして改変・追加し続けるためには、「TULIPのようなローコード開発・実行プラットフォームに加え、DXを推進する専任部門を情報システム部門とは別に立ち上げることと、DXを継続し効果を出すための投資とが必要になる」と訴える。具体的な必要要素として荒谷氏は、次の5つを挙げる。

必要要素1=アジャイル :社内にスピーディな開発環境を構築する
必要要素2=シチズンデベロップモデル :プログラミングのエキスパートでなくても業務を自動化できるシチズンデベロッパー(市民開発者)を育成する体制づくり
必要要素3=既存システムの活用 :既存システムを最大限に活かしながらデータを可視化・分析できる仕組みを作る
必要要素4= DX推進組織 :DX推進の専任部門の設置
必要要素5=会社としてのDX投資 :工場・製造現場だけでなく全社費用としてのDX投資

製造現場の変革は作業指示書とチェックシートのデジタル化から

 では製造業においてTULIPは、どのように活用されているのだろうか。多くが最初に取り組むのが、作業指示書とチェックシートのデジタル化だという(図3)。

図3:TULIPを使った作業指示書とチェックシートの作成例

 「ミスや捏造、改ざんが発生しにくい仕組みを構築し、製造現場の計測データを蓄積していくことがスタートになる。作業指示書とチェックシートを開発できれば、『次は生産管理システムとつないで在庫管理もできるのではないか』といったアイデアが現場から出てくるようになる」と荒谷氏は話し、DX推進のヒントになる活用事例として以下を紹介する。

活用事例1 :ノギスや糖度計といった計測器をTULIPに接続し、目視確認や手書きでの記入を改善した。システム上での正確な合否判定を実現したことで、人手による読み取りと記入ミスがなくなり、現場の業務負担を軽減した。

活用事例2 :デジタル化が困難な三次元測定器をTULIPに接続しデータを取得することで、人為的ミスをなくし現場の業務効率を高めた。従来2~3時間かかっていた現場の業務を30分に短縮し、納品先への検査表をデータで送信できるようにした。

活用事例3 :生産管理システムとTULIPを連携し、生産予定数や実績値、進捗状況などをデジタルで確認できるようにした。生産管理システムに実績を自動投入したり、現場の従業員や管理者がリアルタイムなデータを確認したりすることで、生産管理効率を高めた。

活用事例4 :各工場任せだった製造機械の稼働状況をTULIPで一元管理し、全ての工場の稼働状況を一覧できるようした。それにより、例えばA工場の加工機が故障したらB工場に作業を移すといった生産計画の練り直しが可能になった。電力使用量の可視化にも取り組んでいる。

活用事例5 :作業指示書を起点に、さまざまな業務のアプリ化を進めた。開発したアプリは現場に即時展開し、フィードバックもすぐに反映させるアジャイル体制を実現した。全社的な業務改善の意欲やスキルの向上も図っている。

活用事例6 :TULIPの導入を契機にDX実現組織を立ち上げた。導入から3カ月の時点ではシチズンデベロッパーは兼務の1人だけだったが、その後に数人を育成した。データ分析に基づくアプリ作成の価値を認識し、全社を挙げた組織変革に取り組んでいる。

現場のデータを蓄積・活用するためのプラットフォームが不可欠

 これらの事例を踏まえ荒谷氏は、「ITシステムを継続的に変革するには、現場のあらゆるデータを蓄積し活用するプラットフォームが欠かせない。そのうえで現場の知見を活かすにはローコード開発が望ましい。ITシステムは導入して終わりではなく、改変を続け新しい価値を創出していくことが重要」と改めて強調する。

 そのうえで、「T-Projectは、体験施設『TULIP Experience Center(TEC)』を東京、名古屋、奈良、仙台、金沢、浜松に展開している。製造現場におけるDX推進に向けて利用していただきたい」(荒谷氏)と呼びかける。

お問い合わせ先

T Project

https://tprj.co.jp/