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  • 製造DXの“今とこれから” 「Industrial Transformation Day 2024」より

製造DXの本質は現場のデータを活用しITシステムを変革し続けることにある

「Industrial Transformation Day 2024」より、T Project 代表取締役の荒谷 茂伸 氏

2024年5月7日

製造業を取り巻く環境が大きく変化する中、現場が必要とするアプリケーションプログラムを現場で開発するシチズンデベロップメント(市民開発)への関心が高まっている。T Project 代表取締役の荒谷 茂伸 氏が「Industrial Transformation Day 2024(主催:DIGITAL X編集部、2024年3月14日~15日)」に登壇し、製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)におけるデータ活用基盤とローコード開発の必要性を解説した。

 「製造現場がローコード開発により必要なアプリケーションを開発・実行できるようになれば、アプリケーション開発の外部委託が不要になり自社での人材育成に取り組めるうえ、アジャイル(俊敏)型になりビジネスを取り巻く環境の変化にスピーディに対応できるようになる」−−。製造業向けローコード開発・実行基盤を販売するT Project 代表取締役の荒谷 茂伸 氏は、こう強調する(写真1)。

写真1:T Project 代表取締役 荒谷 茂伸 氏

 T Projectは、製造現場にアジャイル(俊敏)開発を広げるために、DMG森精機が2020年9月に設立したDX(デジタルトランスフォーメーション)関連サービスの提供会社。具体策として、ローコード開発・実行環境を持つMES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)である「TULIP(チューリップ)」(米Tulip製)を国内で販売・サポートしている。

 TULIPに製造現場に存在する新旧さまざまな機器を接続できるよう、専用ハードウェア「Edge IO(エッジ・アイ・オー)」も用意する。PC用インタフェースを持たない計測機器やPLC(Programmable Logic Controller)、加工機などに加え、「稼働中の既存システムやデータベースなどを接続するための各種コネクターも用意し、既存資産を最大限に活用できる」(荒谷氏)という(図1)。

図1:「Edge IO」は、製造現場で稼働する新旧さまざまな機器をTULIPに接続するための専用ハードウェア

 ローコード開発を可能にする製品はオフィス用途では多数提供されている。だが荒谷氏は「製造現場では意味合いが大きく変わる」と指摘する。なぜなら、オフィスでは、「経理や営業、ワークフローなどの共通業務が多く、共通のテンプレートが適用しやすいのに対し、製造現場の作業環境は多種多様で共通のテンプレートが、ほぼ存在しない」(同)ためだ。さらにオフィスのPCやサーバーは接続インタフェースの標準化が進んでいるが、「製造現場には多様な機器が存在し、接続方法も多岐に渡る」(同)という要因もある。

 荒谷氏は、「Edge IO を含むTULIPは、製造業に特化したローコード開発・実行のプラットフォームだ。プログラミングの知識がなくても、PowerPointのスライドを作成するように必要な項目を選択すれば、製造現場が必要とするアプリケーションを作成できる」と説明する。

PDCAサイクルを回すには“異常への気づき”が必要

 そのうえで荒谷氏は、「TULIPは製造現場における標準化を進めるためのツールとして利用すべきだ」と主張し、その理由を、こう説明する。

 「製造現場でPDCAサイクルを回すためには“異常への気づき”が必要であり、TULIP は標準化とデータ収集の仕組みを使って改善を進める『SDCA(Standardize:標準化、Do:遵守、Check:異常への気づき、Act:是正処置)』サイクルを実現できるからだ。SDCAとPDCAの両サイクルを回すことで、あいまいな属人性を客観的なデータに置き換えられる」(図2)

図2: PDCAサイクルが必要とする“異常への気づき”をSDCAサイクルによって実現する