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  • 製造DXの“今とこれから” 「Industrial Transformation Day 2024」より

プラントの稼働状況を示すデータの横断的な活用を可能にし運用効率を高める

「Industrial Transformation Day 2024」より、Cognite セールス ディレクターの浜ノ上 昇馬 氏

2024年5月8日

プラントの効率的な運営に向けて昨今、注目を集めているのがAPM(設備パフォーマンス管理)である。だが、その効果を最大限享受するには、サイロ化されたデータの集約・関連付けが欠かせない。プラントなどのデジタルツイン構築を支援するノルウェーCogniteの日本法人でセールス ディレクターを務める浜ノ上 昇馬 氏が「Industrial Transformation Day 2024(主催:インプレス DIGITAL X、2024年3月14日~15日)」に登壇し、APMの効率を高めるためのデータ活用基盤のポイントを解説した。

 「プラント設備の管理用ソフトウェアは、オンプレミス型での提供が多かった。しかし、開発に時間がかかったり、アップデートやバグフィックスなどに時間が取られたりするという声が強い。当社が提供するSaaS(Software as a Service)型なら、そうした課題を解消できる」−−。ノルウェーCogniteの日本法人でセールス ディレクターを務める浜ノ上 昇馬 氏は、こう語る(写真1)。

写真1:Cognite日本法人セールス ディレクターの浜ノ上 昇馬 氏

 Cogniteは、ノルウェー・オスロで2016年に設立された産業向けデジタルツインの構築・運用環境を提供する企業である。ノルウェーの石油開発会社Aker BPを親会社に持ち、そこでの構築・運用ノウハウなどを元に開発した「Cognite Data Fusion」をグローバルに提供する。

 Aker BPでの利用はもとより、サウジアラビアのサウジアラムコや米エクソンモービルなどの大手エネルギー企業が利用する。現在は、「設備データにまつわる課題を有する製造業や、電力/クリーンテックなどの業界でも採用が進んでいる」(浜ノ上氏)。日本も、日本触媒やコスモ石油、富士石油、プライムポリマー、日本ゼオン、丸善石油化学、JFEスチール、旭化成などが採用している。

プラントのデータにまつわる課題を解決

 Cognite Data Fusionを生み出したAker BPは、「データに関する課題を抱えていた」と浜ノ上氏は明かす。具体的には「計器のデータやセンサーデータは時系列データベースに、各種図面はドキュメント管理システムに、写真や動画はファイルサーバーにと、それぞれが個別最適化されており、データの横断的な共有・活用が難しかった」(同)という(図1の左)。

図1:データの管理が個別最適化されると全体的な管理が実現しづらい。「Cognite Data Fusion」はデータを関連付け、横断的な活用を可能にする

 そうした課題を解決するために種々のコネクターを用意し、さまざまなシステムからデータを収集し、ストレージに統合して蓄積できるようにした。「製造業におけるデータサイロを解消するために、プラント内の各種データを横断的かつ有機的に紐づけ、データ活用プロセスの定着を図る“DataOps”のためのプラットフォームだ」と浜ノ上氏は説明する。

 DataOpsのための仕組みや考え方を製品化したのがCognite Data Fusionである。「いわゆるデータレイクやデータウェアハウスとは異なり、蓄積されたデータがコンテキスト(文脈)に沿って関連付けされている点が大きな違いだ」(浜ノ上氏)という。

 データの関係付けは「機械学習により半自動で実行でき高速だ」(浜ノ上氏)とする。例えば、データベースのタグ名称と設備マスターのタグ名称が似通ってはいるものの一致しない場合、「AI(人工知能)技術を使った『エンティティマッチング』機能により判断し関連付けを提案する」(同)

 データの関連付けができると、例えば“ポンプ1”に不具合が起こった時、「『ポンプ1に関わる必要なデータがほしい』という検索だけで、ポンプ1に紐付くデータを芋づる式に取り出せるようになる」(浜ノ上氏)。関連付けがなければ、「それぞれのデータソースに当たり何度もデータを確認しなければならず、かなりの時間と労力がかかる」(同)という(図2)。

図2:データ活用基盤の構築に向けCognite Data Fusionが提供する機能の概要

 データ間だけでなく、Cognite Data Fusionでは、PDF化した配管計装図(P&ID)から、記載されている設備のタグ名称をOCR(光学文字読み取り)機能で抽出し、設備マスターと付き合わせた関連付けもできる。浜ノ上氏は、「同様のことが写真や動画でも可能だ。従来かなりの時間とコストをかけていたデータの関連付けが容易になり、データ活用基盤を短期に構築できる」と強調する。

 そのうえで、Cognite Data Fusionが用意するAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)やSDK(ソフトウェア開発キット)を使えば、タブレットやスマートフォンによる日常点検や、大型設備の状態監視、予兆保全といった種々のアプリケーションを開発できるという。