• Column
  • 製造DXの“今とこれから” 「Industrial Transformation Day 2024」より

DX・IoT推進の“新常識”は「ローコスト」と「スピーディー」

「Industrial Transformation Day 2024」より、ソラコム テクノロジー・エバンジェリスト 松下 享平 氏

2024年5月9日

DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが進む中、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の仕組みを導入するケースが増えている。IoTのための通信サービスなどを提供するソラコムのテクノロジー・エバンジェリストである松下 享平 氏が、「Industrial Transformation Day 2024(主催:インプレス DIGITAL X、2024年3月14日~15日)」に登壇し、IoTシステムの導入を成功に導くポイントを解説した。

 「DX(デジタルトランスフォーメーション)やIoT(モノのインターネット)には『大きな投資が必要』で『じっくり取り組むもの』と思われているかもしれない。だが最近は、費用をできるだけ掛けない『ローコスト』で素早く実現する『スピーディー』な展開が可能になってきている」−−。IoTのための通信サービスなどを手掛けるソラコムのテクノロジー・エバンジェリストである松下 享平 氏は、こう話す(写真1)。

写真1:ソラコム テクノロジー・エバンジェリストの松下 享平 氏

 ソラコムの中核製品は、IoTを実現するための通信プラットフォームである。その特徴を松下氏は、「システム構築における困りごと、例えば、IoT向け通信回線の調達やIoTデバイスのセキュリティの確保など、必要だが手間がかかる課題を簡単に解決できるサービスだ」と説明する。

 ソラコムが提供するIoT向け通信回線の数は、サービス開始から8年で600万回線を越えた。これは「モノがインターネットにつながるのが普通の世界になってきたことの現れ」(松下氏)だ。その背景には、DXへの関心や取り組みの高まりがある。松下氏は、「IoTとDXは非常に関係が深い」と指摘したうえで、こう説明する。

 「DXの目的は競争上の優位性の確立にある。企業は、顧客や社会とデジタルでつながることで競争力を獲得し、トランスフォーメーションを実現する。デジタルでつながるためには製品/サービスをデジタル化するだけでなく、業務や企業文化もデジタルに合わせる必要がある。そのための手段の1つがIoTだ」

ローコストを可能にするスモールスタートでは成果を説得材料にする

 松下氏によれば、IoTは大きく3つの要素から成り立っている。(1)現場をデジタル化するセンサーやデバイス、(2)現場とクラウドをつなぐネットワーク、(3)デジタルデータを活用するクラウドだ。ソラコムは、これら3要素に対応し、現場とクラウドをつなぐIoTプラットフォームを提供する(図1)。

図1:ソラコムが提供するIoTプラットフォームの概念図

 「IoTは、モノやコトをデジタル化し、人手に頼らずにデータを集めたり現場を動かしたりを可能にする仕組みだ。ソラコムの通信サービスは、利用料金やセキュリティを考慮したIoT向け通信回線のほか、省電力の無線通信、衛星通信を用意し、どんな現場からでもクラウドへ接続できるようにする」と松下氏は説明する。

 IoTデバイスやIoT向けクラウドは、パートナー企業とともに提供し、それらを部品として組み合わせることでIoTシステムを構築する。それにより松下氏が冒頭で話したように「ローコストでスピーディーな展開が“新常識”になっている」。

 ローコストな取り組み事例として松下氏は、工場の廃水処理装置メーカーのJOHNANを紹介する。浄水フィルターの点検と交換をいかに適切なタイミングで実施するかという課題に対し、IoTでフィルターの利用状況を可視化し、適切な交換時期を通知する仕組みを構築した。「顧客企業が実施していた交換管理の手間をなくすことで、顧客満足度を高め、製品競争力の強化につなげられた」(松下氏)という。

 ポイントは「1人、1万円、1カ月」という人数・費用・期間で始めたことにある。「当初は取り組みを進める仲間もいなかったが、実際に動く仕組みを社内で見せたことで関係者の関心が一気に高まった。そこからIoTプロジェクトが本格化した」と松下氏は説明する。

 「スモールスタートでは、最初は小さく作るというだけでなく、結果を出し関係者と共有するまでがポイントだ。成果を説得材料にしてプロジェクトを進めることがスモールスタートで目指すべきことだ」(同)