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  • 製造DXの“今とこれから” 「Industrial Transformation Day 2024」より

製造業の未来を示す世界経済フォーラムの“ライトハウス(灯台)”、AI技術の活用が活発に

「Industrial Transformation Day 2024」より、世界経済フォーラム(WEF)のフェデリコ・トルティ 氏

森 英信(アンジー)
2024年5月8日

DXへのビジョン持つ経営層の高いコミットメントも重要

 評価プロセスはまず、対象になる工場やサイトを内部で選び出し、候補者に対し3カ月にわたる訪問調査を実施する(図2)。その後、完全に独立した外部の専門家パネルが評価する。パネルは、ビジネス界や学界から選ばれた、DXと、その運用経験を持つ上級リーダーや製造分野のイノベーターから構成される。最終的な選出結果は、スイス・ダボスで開催する年次総会(通称、ダボス会議)やライトハウスのライブイベントなどで発表する。

図2:ライトハウスの認定プロセス

 認定されているライトハウスには「共通する特徴が3つある」(トルティ氏)という。(1)目的を持ったデジタル化、(2)イネーブラーの構築、(3)協力・協働へのオープンさである。

 すなわち、明確な問題意識を持って先進技術を活用し、特定の事業ニーズに対して開発し、アジャイル手法や人材育成、テクノロジー、データ活用といったイネーブラーにおいて高い成熟度を示す。そのうえで最良の実践を共有し、異なるセクターからの学びを協力的な姿勢をもってコミュニティに貢献しているというわけだ。加えて、「DXに対するビジョンを持つ経営層の高いコミットメントも重要だ」とトルティ氏は指摘する。

ライトハウスにおけるAI技術活用は2023年に50%超え

 AI技術の活用は製造業でも活発になっている。WEFが2023年12月に公開した最新のホワイトペーパーによれば、「過去5年間の研究でまとめられた700以上の使用例のうち、60%以上が何らかの形でAI技術を活用している」ことが明らかになった。「IT(Information Technology:情報技術)とOT(Operational Technology:制御技術)とAI技術を組み合わせた活用が活発になっている」(トルティ氏)。ライトハウスにおいては「75%が3〜6カ月という短い期間で実装している」(同)という。

 ライトハウスにおけるAI技術の活用対象の1つが、顧客インサイト(洞察)の獲得である。「自社製品に対するフィードバックをインターネットから収集・分析し、研究開発部門と製造部門に直接提供するための洞察を抽出している」とトルティ氏は説明する。

 もう1つの対象がデジタルツインだ。シナリオプランニングやオーダーの優先順位付け、スケジューリングの自動化、動的な需要に対する現場リソースの最適化など、「柔軟な生産に役立て、製品出荷のスループットの向上や生産コストの削減を実現している」(トルティ氏)とする。セルフサービスでの品質分析や根本原因の分析、予測モデルによる異常検知など品質管理にも活用している。

 最新のライトハウスでは、「AI技術の急速な展開とスケーラビリティの実現が見られる」とトルティ氏は話す。AIコマンドセンターを介したシステムレベルでの自動化の推進や、生成AIを活用したパイロット導入から実装までの移行期間の短縮などだ。実際、ライトハウスにおけるAI技術の活用率は2018年の14%が2023年には58%にまで上昇した(図3)。

図3:ライトハウスにおけるAI技術の活用は2023年に50%を越えた

 こうした状況をトルティ氏は、「初期段階での挑戦を乗り越えイノベーションを全社に拡大し、デジタル技術を組織全体で効果的に適用している。技術の早期導入者は競争上の利点を享受している。技術を組織全体に広げるにあたり、ライトハウスは、必要な能力を高めるための人材やチームを整備し、データ基盤の配備に努めている」と分析する。

ライトハウスのコミュニティ活動にも生成AIを活用

 2024年にグローバル・ライトハウス・ネットワークは次のような活動を強化するとトルティ氏は説明する。まずUX(User eXperience:顧客体験)を一新するためにアンケートを見直し、異なるカテゴリーのライトハウスを認定していく。学習の質の改善にも注力し、ライトハウスへの訪問回数を増やし、特定のテーマに焦点を当てたイベントの質を向上させる計画だ。

 データの収集・分析における継続的な取り組みとしては、コミュニティが洞察と情報に迅速にアクセスできるよう対話型ツールを構築する。そこには生成AI技術を導入し、より有用な洞察を抽出できるようにする。

 次回のライトハウスの認定は、2024年6月中旬頃に調査を締め切り、7月頃に申請者へ結果を通知し、8月から10月にかけて訪問調査を実施する。11月頃に専門家パネルの審査を終え、2025年1月のダボスでの年次会議で発表する予定である。トルティ氏は「ライトハウスに認定されるための方法や学びの場などについて知りたい場合は、遠慮なくWEFに連絡してほしい」と呼びかける。