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  • 製造DXの“今とこれから” 「Industrial Transformation Day 2024」より

製造業の未来を示す世界経済フォーラムの“ライトハウス(灯台)”、AI技術の活用が活発に

「Industrial Transformation Day 2024」より、世界経済フォーラム(WEF)のフェデリコ・トルティ 氏

森 英信(アンジー)
2024年5月8日

世界経済フォーラム(The World Economic Forum:WEF)はデジタル技術などを活用した先進工場や企業を認定するプログラム「グローバル・ライトハウス・ネットワーク」を展開している。同プログラムを担当するフェデリコ・トルティ氏が、「Industrial Transformation Day 2024」(主催:DIGITAL X、2024年3月14日~15日)に登壇し、同プログラムの最新動向と、これからについて解説した。

 「私たちは先進的な製造の“未来”に目を向け、その成長だけでなく、持続可能性や包摂性を高めるイノベーションやビジネスモデル、技術の応用を考察している。企業の運営が実質的に改善されるだけでなく、周辺地域も恩恵を受けられるからだ」−−。世界経済フォーラム(The World Economic Forum、以下WEF)でアドバンスド・マニュファクチャリングとバリューチェーン部門イニシアチブ・リーダーを務めるフェデリコ・トルティ氏は、WEFが製造業に着目する理由を、こう説明する(写真1)。

写真1:世界経済フォーラム(WEF) アドバンスド・マニュファクチャリングとバリューチェーン部門イニシアチブ・リーダーのフェデリコ・トルティ 氏

製造業が先進技術の恩恵を受けられるよう後押しする

 WEFは、ビジネスリーダーや市民社会、政府、学術界、国際組織など多様なステークホルダーを結びつけ、世界的な課題解消に向けた対話を促進している。対象として、先進製造技術・サプライチェーン、サイバーセキュリティ、エネルギー・素材、金融、健康・ヘルスケア、自然・気候など10分野を挙げる。このうち、先進製造技術・サプライチェーン分野の取り組みの1つに「グローバル・ライトハウス・ネットワーク」がある。

 グローバル・ライトハウス・ネットワークは2018年、WEFが米マッキンゼー・アンド・カンパニーと共同で立ち上げた。世界中の製造業の実態を研究する中で、「多くの製造業がロボティクスやAI(人工知能)などの先進技術を活用しながらも具体的な成果を得ることに苦労していることが明らかになった」(トルティ氏)ことが立ち上げの原点だ。

 そうした状況を解消するために、先端技術を取り入れ事業を変革できている成功事例を認定することで、「ビジネスの成長や、地球と環境への貢献、さらには社会や人々に対する変革的な影響を示す方法を共有できるコミュニティとして重要な役割を果たす」(トルティ氏)。年間を通じ、ワークショップやイベント、工場見学など、さまざまな交流の機会を提供している。

 グローバル・ライトハウス・ネットワークの重要性が高まっている背景としてトルティ氏は、現在の製造業が直面している5つの課題を挙げる。

課題1=持続可能性の追求 :エネルギー効率の向上や排出の管理を含め、炭素捕捉技術の開発や規制要求への対応が求められている
課題2=サプライチェーンのレジリエンス(回復力・弾力)の向上 :その達成には深い理解と、信頼できるパートナーシップ、グローバルな協力が必要になる
課題3=テクノロジーの適用 :多くの企業がテクノロジーを導入しているものの、そのメリットを組織全体に広げるのは容易ではない
課題4=スキルを持った人材の確保 :個人のスキルアップやデジタルツールの効果的な活用が求められる
課題5=顧客の需要への対応 :ユニークな価値を想像し、タイムリーに提供する力が求められている

東南アジア、インド、南アメリカの存在感が高まる

 グローバル・ライトハウス・ネットワークが“ライトハウス(灯台)”として認定している工場・サプライチェーンは2024年3月時点で世界に153ある(図1)。中国とヨーロッパに重点が置かれているが、「近年は、東南アジア、インド、南アメリカの存在感が増している」(トルティ氏)。テクノロジーの活用例は700以上あり、うち200がAI関連だ。

図1:「グローバル・ライトハウス・ネットワーク」が認定する工場・サプライチェーンは2024年3月時点で世界に153ある

 ライトハウスの認定基準は、(1)業界への影響、(2)統合ソリューション、(3)イネーブラー(手段)の3つの主要な領域に集約される。トルティ氏が「恐らく最も重要」とするのは(3)イネーブラー(手段)である。

(1)業界への影響 :特定の技術を運用することにより生じる財務的影響、例えばコスト削減や新たな収益の創出に焦点を当てる。その影響は、DX(デジタルトランスフォーメーション)や第4次産業革命のプロセスに直接関連している必要がある。2020年からは、持続可能性や運用上のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の改善なども求められる。

(2)統合ソリューション :特定の技術の組み合わせが企業のビジネス課題を完全に解決し、それが生み出す影響を評価する。

(3)イネーブラー :工場や企業が変革や変化、先進技術の採用を効果的に管理するために必要な組織的な要素である。具体的には、アップスキリング、リスキリング、外部ソーシング、パートナーシップを通じて知識を創出する方法、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)アーキテクチャーの標準化の度合いなどが含まれる。