• Column
  • 現場から経営へ、企業の持続的成長を支えるSCMの今

サプライチェーンを取り巻く環境は複雑化する一方、データドリブンなSCMの実現が経営を支える

齋藤 公二
2024年10月2日

事業継続やコンプライアンスなどSCMを取り巻く環境が大きく変化

 上記事例のように各社がSCMの強化に動く背景には、ビジネスを取り巻く環境の大きな変化がある。それは大きく、次の3つのトレンドに整理できる(図1)。

図1:SCMを取り巻く環境変化の3つのトレンド

トレンド1:自然災害やパンデミック、システム障害、サイバーセキュリティなど事業の継続性を揺るがす要因が、これまで以上に増えている

 例えば、2011年に発生した東日本大震災では、自動車向け半導体工場が被災し、部品供給が滞り自動車生産に大きな影響が出た。2019年からの新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックでは、モノの生産・流通が止まり、多くの企業がビジネスのあり方を再考せざるを得なかった。
 加えて最近は、ランサムウェアに代表されるサイバー攻撃によって生産設備や社会インフラが停止する事態も相次いでいる。こうした事業継続に関わるリスクに対応するためには、サプライチェーン全体での対応が不可欠である。

トレンド2:少子高齢化に伴う人手不足や、働き方改革の推進、各種法規制の遵守、経済活動における信頼性や透明性の確保など、コンプライアンスやガバナンスへの対応が重要になってきた

 構造的な人手不足がサプライチェーン全体に影響を与えるケースが増えている。例えば物流業界では、2024年4月からの働き方改革関連法の施行に伴うドライバー不足が深刻化しているが、物流業界だけでの対応は難しく、サプライヤーやメーカー、小売業者などを含めた連携が求められている。
 原材料や部品の調達においても、不正な手段で製造されていないか、品質に問題がないか、各種基準を満たしているかなどを確認し、製造や取引の透明性や信頼性を確保する取り組みが求められている。サプライチェーン全体でコンプライアンスを確保することがビジネス上、不可欠になってきている。

トレンド3:デジタル化が進展しデータ分析の重要性が高まっている

 消費者ニーズや需要を予測し生産・販売計画を精緻化したり、製造や流通過程におけるボトルネックを発見し業務を効率化したりするために、データ分析は欠かせない要素になった。
 近年では、工場や倉庫、配送センターにおけるIoT(Internet of Things:モノのインターネット)データや、EC(電子商取引)サイト、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)への書き込みなど、複数のデータソースを統合して分析する取り組みも活発化している。機械学習や深層学習、生成AIなどの発展を背景に、分析手法や結果に基づく改善手法も大きく進化している。より全体最適を求めるサプライチェーン管理においてデータ活用は不可欠になっている。

 これらトレンドにおいて近年、特に注目されているのが、データに基づいて意思決定を下す、いわゆる“データドリブン”なアプローチである。冒頭で紹介した事例に見られるように、最近のSCMでは、従来の手元にあるデータの分析に加え、社外データの取り込みやAI技術などによる分析など、予測精度や信頼性を高める取り組みが加速している。

 その背景には、アナリティクス技術の進化や、クラウドやAIといった技術を使ったデータ分析基盤の登場など、必要とする技術の進化がある。IoTやブロックチェーン、生成AIといった技術領域も拡大している。これらの技術を活用することで、データの不整備やプロセスの複雑化、人材・スキル不足などの課題への対応が以前より容易になっている。