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  • 現場から経営へ、企業の持続的成長を支えるSCMの今

サプライチェーンを取り巻く環境は複雑化する一方、データドリブンなSCMの実現が経営を支える

齋藤 公二
2024年10月2日

 SCMのゴールは、サプライチェーン全体の効率化と最適化だ。ゴールを目指して取り組みを進めることで、種々の効果やメリットが生まれる。大きく次の5つに整理できる(図2)。

図2:SCMのゴールを目指す過程で得られる5つのメリット

メリット1=業務の効率化とコスト削減

 メーカーがサプライヤーとの関係を見直したり、調達や配送のプロセスを共通化・標準化したりすることで、それにかかわる業務やシステムの効率を高め、コストの削減が期待できる。物流・流通分野では、複数の事業者が連携して共同配送などの仕組みを構築すれば、配送コストの低減や、物流・配送ドライバーの不足へ対応が可能になる。

メリット2=在庫の適正化と需要変動への対応

 メーカーから小売業者までが在庫情報や販売情報を共有できれば、欠品や納期遅延、過少在庫や過剰在庫といった課題にスムーズに対処できるようになる。在庫が適正化されれば、環境変化や消費者ニーズの変化に伴う需要の大幅な増加・減少といった事態にも対処が容易になる。

メリット3=リードタイムの短縮

 製造、物流、販売などの各プロセスにおける無駄をなくし効率化を図ることで、リードタイムを短縮できる。情報を共有し、それぞれの在庫を適正に保てば、各プロセスの連携がスムーズになり、よりスピーディーな対応が可能になる。販売状況をリアルタイムに把握し、需要予測を生産計画に反映させることで、生産量の最適化が図れる。

メリット4=素早い経営情報の把握と意思決定の迅速化

 需要予測や販売計画、生産計画などの実態をデータで把握し、市場や取引先の状況をリアルタイムに可視化できるようになるため、データを根拠にした客観的な意思決定が容易になる。返品対応やクレーム対応などトラブルが起こった際も、トラブルを早期に発見し、早期解決が期待できる。データに基づくことでサプライチェーンリスクなどへも対応しやすくなる。

メリット5=各部門、取引先、顧客などとのエコシステム構築

 製造から販売までのプロセスを最適化する際には、部門や取引先との連携が欠かせない。良好な関係を築くことで在庫情報の連携やトラブル情報の共有などもスムーズになり、顧客満足度も高まる。関係者がメリットを享受するためには、顧客を含めたエコシステムの構築が重要だ。SCMによるエコシステム構築は、企業の持続的成長のカギになると考えられている。

 種々のメリットが期待できる半面、SCMへの取り組み過程では、いくつかの課題に直面する。例えば、SCMの対象は、原材料や部品の調達から設計・製造、物流・流通、販売・消費まで幅広く、それぞれのプロセスを見直し改善する作業も多岐にわたる。きめ細かく検討した結果、プロセスが複雑化したり、連携が難しくなり逆に非効率になってしまったりするケースも少なくない。

 取り組みを推進する人材やスキル、体制をどう築いていくかも大きな課題になる。部門や企業ごとに業務が個別最適化し、システムもサイロ化している場合、それらを解きほぐしていくためには、当事者だけでなく、新たな人材やスキル、体制が必要になる。既存業務を担いながら、新しい取り組みを推進していく必要があるからだ。

 データの整備やシステム構築も大きな課題だ。グループ内であっても企業ごとに異なるシステムを採用していれば、システムのリプレースやシステム連携、データ連携が必要になる。データについても、関係者間で、どのようなデータを、どういった軸で分析し、どう共有するかを決めなければならない。システム構築や運用、データ分析にかかる費用や手間が非効率性を招くといった事態も考えられる。

データドリブンなSCMの実現がグローバルに求められている

 SCMへの取り組みは、幅広く多岐にわたる領域において、人、プロセス、テクノロジー全般について、費用対効果を常に検討しながら継続的に改善していかなければならないという難しさがある。しかし、事業継続やコンプライアンス、デジタル化は世界的な経営課題であり、国内事情だけでなく、グローバルな視点でのSCMの実現が求められる。

 1980年から数えて40年以上の歴史のある取り組みながら、デジタル化が進展するなかで、AI技術を使った需要予測や生産・販売計画は、これまでにない価値を生む可能性があり、データドリブンの実現に向けて再スタートを切った状態だ。日本企業が今後、SCM改革にどう取り組み、ビジネスモデルをどう刷新していくのか注目される。