• Column
  • 現場から経営へ、企業の持続的成長を支えるSCMの今

サプライチェーンを取り巻く環境は複雑化する一方、データドリブンなSCMの実現が経営を支える

齋藤 公二
2024年10月2日

SCM(Supply Chain Management:サプライチェーン管理)は、企業が自社のモノやサービスを開発・製造し顧客に提供するまでの仕組み全体を最適化していく取り組みだ。決して新しい概念ではないが、昨今の経営環境の変化やデジタル技術の進展を背景に、その対象範囲や実現方法、そこに求める価値などが大きく変わってきている。SCMの基礎とデジタル技術活用の動きなどを解説する。

 SCM(Supply Chain Management:サプライチェーン管理)は、企業が製品/サービスを顧客に提供するまでの一連の流れを見直し、プロセス全体の効率化と最適化を実現するための経営管理手法である。決して目新しいキーワードではないが近年、SCMの重要性が改めて認識され、サプライチェーンの見直しや、そのための仕組みを強化する動きが広がっている。

パナソニック エレクトリックワークス社:需要予測システムでSCMを強化

 住宅やオフィス、商業施設で使う電設資材を製造するパナソニック エレクトリックワークス社は2024年4月、需要予測システムの本格運用を開始した。国内外にあるサプライヤーや工場など3000社以上に散在するデータを横断的に統合・分析し、約20万ある部品の供給を、災害発生や事業環境の変化時にも維持できるようにするのが目的だ。
 需要予測に向けては、生産、販売、在庫、部品調達など20種の業務システムのデータを統合し、約20万品番の部品の在庫や発注情報を可視化する。そのうえで、過去5年分の主要部品の販売実績を元に300種の予測モデルを生成し、PSI(Production:生産、Sales:販売、Inventory:在庫)計画や、部品調達計画などを全社レベルで最適化を図っている。

富士フイルムグループ:情報基盤を構築しデジカメのサプライチェーンを改革

 富士フイルムグループは、ブロックチェーン技術を使った情報基盤「DTPF(デジタルトラストプラットフォーム)」を自社開発し運用している。同基盤の適用先の1つが、デジタルカメラ「Xシリーズ」のサプライチェーン管理である。コロナ禍で部品の需給バランスが著しく悪化し、部品調達や納期調整が困難になったことが理由だ。
 そこでDTPF上に、サプライヤーとの情報共有をより効率的かつ安全にできる業務アプリケーション「SRM(サプライヤーリレーションシップマネジメントシステム)」を新たに開発した。主要サプライヤーとの情報基盤として安定運用と部品調達の可視化を図っている。今後は、納期回答情報を基に、部品発注1回当たりの数量を絞り込み、部品在庫量の一層の適正化を図ることも視野に入れている。

キリンビール:製造計画における数量算出を自動化

 キリンビールは、1~2週間先の製造数量を算出するアプリケーションを開発し、2023年7月から運用を始めている。製造計画の作成に要する時間の70%を削減し、年間1000時間以上の時間創出を見込む。従来は、直近の出荷実績と今後の需要予測、在庫数量などのデータを元に、担当者が表計算ソフトウェアなどを使って製造数量を算出していた。
 新開発したアプリケーションでは、製造計画を自動で作成し、それを製造計画システムに自動で反映させる。工場での製造要件や倉庫の保管能力といった制約条件を基に計画を作成する。作成した製造計画の内容を人が効率的にチェックするためのアラート機能もある。

独メルク:半導体不足の解消に向け業界サプライチェーン基盤を構築

 医薬・化学メーカーの独メルクは、半導体不足への対応を目的に、同業界のサプライチェーンを対象にしたデータ分析基盤「Athinia」構築に取り組んでいる。AI(人工知能)技術を使ってサプライチェーンに関係するデータの分析を可能にし、関係各社での情報共有を促す。製品の市場投入までの時間短縮を図り、半導体不足やサプライチェーンに関する課題の解決を図るのが狙い。
 参加各社が提供するデータについては、コード化・匿名化された状態での共有を保証する。各社は、目的に応じたアクセス制御を含め自社データの完全なコントロール権を持てる。