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【対談】日本のDXはいまだ江戸時代、人とAIが共存する時代に備え“人間力”を鍛えよ

「DIGITAL X DAY 2024」より、Gartner Japan 亦賀 忠明 氏 × DIGITAL X編集長 志度 昌宏

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2024年11月5日

欧州自動車業界は「New Auto」へと進化する

亦賀 :「海外では新たな産業革命が起こっている」と先ほど述べましたが、その代表例が自動車業界です。独メルセデス・ベンツは、2020年に「ファクトリー56」という工場を新設し、全てをデジタルで統合したグローバルな製造システムに転換しました。データ基盤に蓄積したデータや生成AI(人工知能)技術を活用するなど、製造担当のトップがDXをどんどん進めています。

 その目的の1つが、従業員の作業負荷を軽減し、ピープルセントリック(人間中心)の環境を実現することです。ドイツでも少子化による人口減少が進んでおり、それを見越して、人にフォーカスし、人がより良く働ける環境を作ることに取り組んでいます。

 独フォルクスワーゲンは6年前からAWS(Amazon Web Service)をベースにした「Volkswagen Industrial Cloud」を構築し、サプライチェーンの統合を進めています。

 独BMWも、工場のデジタルツインを構築し、デジタルを前提にしたモノづくりに転換しています。例えば、生産ラインを改善する際、作業負荷のシミュレーションにデジタルヒューマンを使い始めています。プロトタイプを作って物理的に実験するよりも、変化に対応するための工数を3割削減できるとしています。

 こうした自動車産業の動きは「New Auto」と呼ばれています(図2)。グローバルではビジネスの自動化、ピープルセントリック、AI技術との共生などが当たり前のNew Worldに移行しつつあります。こうした世界を前提に日本でも、生成AIなどの新しいテクノロジーを当たり前に使う時代に備える必要があります。

図2:デジタルを前提にした自動車産業は「New Auto」と呼ばれる

志度 :メルセデスやフォルクスワーゲン、BMWの変革は、ドイツの産業政策「Industry 4.0」に基づいたものです。日本では当初こそ騒いだものの、最近ではIndustry 4.0というキーワードを耳にすることも少なくなりました。

亦賀 :Industry 4.0が提唱されたのは2011年のことでした。そこから10年以上かけて彼らはDXを推進し続けてきたわけです。なぜ10年も前から始めたのかといえば、自動車メーカーの競争相手がITベンダーになると分かっていたからです。

 実際、今、低価格で高性能なEV(電気自動車)を量産しているBYDやシャオミ、HUAWEIは、いずれも中国のITベンダーですし、米テスラもITベンダーだと言えます。さらに最近のテスラは、EVだけでなく電力を含めたインフラ全体のベンダーへと変わりつつあります。

 こうした次世代の競争が見えていたためメルセデスやフォルクスワーゲンなどは、ITベンダーになるぐらいの勢いで何十兆円ものIT投資をしているのです。

まずは生成AIを試して使ってみることが重要

志度 :そうした状況下にあって生成AIが登場してきました。生成AIは新たな産業革命あるいはDXに、どのようなインパクトを与えるでしょうか。

亦賀 :まず生成AIの現状は、2024年9月に発表した生成AIのハイプサイクルにあっては「過度の期待」のピーク期にあります。つまり「生産性がすぐに向上するかも」「生成AIベンダーになれば、すごく儲かるかも」という過剰な期待が生まれている時期です。それが過ぎると「幻滅期」に入りますが、これは生成AIが廃れるという意味ではなく、むしろそこからが生成AIを実践する本番になります。

 その生成AIが新たな産業革命にもたらすインパクトには、短期的なものと長期的なものがあります。短期的なインパクトとしては、今はプロンプトを入力するだけでテキストや画像、動画を生成してくれるというテクノロジーの凄さに気づく人が増えたこと。そして業務効率や品質の向上に貢献するように使いこなせる人が出てきたことです。

 長期的なインパクトは、インターネットが登場してきた時と同じように、テクノロジーの進化に合わせて使いこなしのテクニックを磨くことが重要なことです。

 米OpenAIのCEO(最高経営責任者)であるサム・アルトマン氏が2024年9月23日、自身のブログで「数千日以内にスーパーインテリジェンス(超知能)が誕生する可能性がある」と述べたように、AGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)やASI(Artificial Super Intelligence:人工超知能)へと発展していくと予想されています。

 そのような未来が実現すれば、人類にかつてないインパクトをもたらすのは明らかです。今から起こるであろう大変化を予見しておくことが重要です。

志度 :短期的インパクトにおいて、生成AIとは、どのように付き合えば良いですか。

亦賀 :まずは試しに使ってみることです。ゴルフの初心者が最初から良いスコアを出せないのと同じで、生成AIも最初は、どんなプロンプトを作れば目的の答えをうまく引き出せるかは分かりません。ですが使っているうちに勘所が身についてくる。ですから、コツコツと工夫しながら使い続けることが重要です。

 ただDX推進部門などが社員に「使ってみてください」と促すと、「プロンプトの作成手順を教えてください」と聞いてくる人が出てくる場合があります。これは実際にあった話です。たとえプロンプト集を作っても誰も見てくれないかもしれません。しかし、全員に生成AIを無理に使ってもらう必要もありません。生成AIを使って業務改善に取り組みたいという、やる気のある人をまずは支援するのが良いでしょう。

 そして経営者も「生成AIを入れたら、どのくらい儲かるのか」という問いをいきなり発することは止めたほうがよいです。会社の中に、テクノロジーを使う人がいなければ、どのようなテクノロジーを入れても儲かることはありません。テクノロジーだけでROI(投資対効果)を語ること自体が誤りだと言えます。