- Column
- 生成AIがもたらすパラダイムシフト ~業務効率化から顧客体験向上まで~
【対談】日本のDXはいまだ江戸時代、人とAIが共存する時代に備え“人間力”を鍛えよ
「DIGITAL X DAY2024」より、Gartner Japan 亦賀 忠明 氏 × DIGITAL X編集長 志度 昌宏
DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みの重要性が指摘されながらも、日本企業からは“変革”と呼べるだけの成果が見えてこない。Gartner Japan リサーチ&アドバイザリ部門ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストの亦賀 忠明 氏とDIGITAL X編集長の志度 昌宏が「DIGITAL X DAY2024 生成AIがもたらすパラダイムシフト」(主催:DIGITAL X、2024年9月26日)の基調講演に登壇し、生成AIなどのテクノロジーが日々、進化していくなかで、日本企業はDXにどう取り組むべきかについて対談した。(文中敬称略)
志度 昌宏(以下、志度) :DIGITAL X編集長の志度 昌宏です。昨今、「日本企業はDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが遅れている」「DXを推進するための人材・体制が整っていない」という調査結果が後を絶ちません。日本におけるDXの現状を、どのようにみていますか。
亦賀 忠明(以下、亦賀) :Gartner Japan リサーチ&アドバイザリ部門ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストの亦賀 忠明です。多くの企業から「DXがなかなか進まず困っている」という相談を受けています。各社ともDXに取り組んでいないわけではないのですが、あまり成果が出ていないことから、もがいている感覚がずっと続いているように思います。
志度 :DXの推進においては、企業の文化や風土の改革も必要だと言われます。それは短期間には実現できないものだけに、成果を感じにくいのかもしれません。
亦賀 :企業風土には、職場の環境や仕事の仕方、考え方などが含まれます。それらを変革するといっても、どこに向かっていけば良いのかが分からない。そこで風土改革のきっかけとしてよく実施されているのが「ファシリティリノベーション」です。働く環境を変えることで風土を変えようとする取り組みです。ただ風土を変えることは、そもそも難しいのです。
DXの成果が出ない要因の1つには、「そもそもDXとは何か」を明確に定義しないまま進行していることがあります。すなわち相当数の企業がDXについて誤解している可能性が高いのです。結論から言えば、DXは「ビジネスのトランスフォーメーション」であり、業務改善やIT化ではありません。
トランスフォーメーションと言えば私は、映画の『トランスフォーマー』のように、車からロボットへドラスティックに変わるようなイメージを持っています。ですが、DXをそのように認識している企業は、どれだけあるでしょうか。実際、そのような企業は日本では、まだ登場していません。しかし海外では、そうした企業が現れています。
日本の現状は江戸末期と同じような状態だと捉えられます(図1)。海外のTier1ユーザーでは既に、蒸気機関やコンピューターによる産業革命に続く「新たな産業革命」が起こっています。しかし、日本の多くの人たちには、それがまだ見えていません。そのような状況下で江戸の人に「今の風土やビジネスのやり方を変えよう」と言っても「江戸の何が悪いんだ。なんで変えないといけないんだ」と返されるでしょう。
「DXとは何か」に加え「なぜDXをやらなければならないのか」が真には分かっていない。にもかかわらず「とりあえず何かやらなければならない」と思って取り組んでいるため「DX = IT化」といったことになっている企業が多いと見ています。
志度 :コロナ禍以降、業務改善やIT化などコンピューターを利用することのすべてがDXと呼ばれるようになってしまいました。これまで実行できていなかったことが実行できた、IT化の対象になったという意義は認めますが、そうした風潮の中でデジタルトランスフォーメーションというDX本来の目的が忘れられていいたようにも感じます。
亦賀 :日本企業の多くがDXに取り組むきっかけになったのは、経済産業省が2018年に発表した『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』です。同レポートには「レガシーシステムを見直さないとビジネス変革の足かせになる」とあり、多くの人がDXを「レガシーシステムの問題」と捉えてしまった。それが日本におけるDXのズレを引き起こしたのではと思います。
DXとは本来、既存業務をなくすことをも前提に、ビジネスのやり方を見直すことです。レガシーシステムの問題ではなく“レガシーな業務”が問題なのです。例えば、手作業や紙での仕事、印鑑などを私は“江戸業務”と呼んでいますが、それらをハイパーオートメーション化していくことが本来のDXです。DXとは、デジタルを前提としたビジネスの仕組みへと転換することなのです。