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【対談】日本のDXはいまだ江戸時代、人とAIが共存する時代に備え“人間力”を鍛えよ

「DIGITAL X DAY2024」より、Gartner Japan 亦賀 忠明 氏 × DIGITAL X編集長 志度 昌宏

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2024年11月5日

AIが人間の能力を上回った際に問われるのは“人間力”

志度 :長期的にはAGIやASIの方向へ発展していくとすれば、どのような付き合い方が求められますか。

写真2:DIGITAL X編集長の志度 昌宏

亦賀 :すでに“AI共生時代”は始まりつつあります。例えば、ファミリーレストランでは、ここ1~2年で配膳ロボットが急速に普及しています。このままいけば2030年頃には、私たちはヒューマノイドやデジタルヒューマン、アバター、AIエージェントなどに囲まれている状況になる可能性が高いです(図3)。

図3:“AI共生時代”の人間は、さまざまなAI技術を使った拡張機能に囲まれている

 その時、AIは使えるものではなく、身近にいるもの、当たり前のものになります。そしてAIは人間を代替する領域に入り、人間の能力を上回るようになります。ディストピア的に考えた場合、AIによる社会統制が始まる可能性もあり得ます。よって、重要になるのがピープルセントリックの考えや倫理です。

 AIや産業革命は重要な歴史的な転換をもたらします。しかし、それにより誰の、何が良くなるのかをしっかりと個々人が問うておく必要があります。そうした時代に備え、今から人間力を高めることの実践が重要です。

 人間力とは「自立して考える力」です。例えば地球温暖化を解決する、火星に行く、未来を想像し具現化するといったことは、AIには無理です。エンターテインメントもそうです。音楽フェスに人が集まるのも、演奏している人に会いたいから、見たいからです。思想や哲学などを語るのも人間だからこそできることです。

 これまでは機械ではできないところを人間の力で頑張ってやってきた。しかし今後は、機械にできることが増えていきます。機械に仕事を奪われるのかと怯える向きもありますが逆に、機械にできることは機械にやらせ、人間は人間でなければできないことをやれるようになると前向きに考える動きもあります。そういう意味でAIの普及は人間力を取り戻すきっかけだとも言えます。

志度 :最後にDXの推進に取り組んでいる企業に向けたメッセージをお願いします。

亦賀 :現在の日本企業は江戸末期、黒船が来たころの状態にあります。産業革命が起こる以前の状態です。だからといって悲観する必要はありません。明治時代、日本も産業革命を起こせたのです。世の中で起こっていることを正しく認識すれば、日本におけるDXも必ずうまくいくはずです。

 江戸末期の日本では、欧米で起こっていることを現地を訪れて、しっかりと目の当たりに“認識”しました。その結果、明治維新につながり、産業革命につながった。そうした歴史的事実を全ての人が思い起こす必要があります。

 DXの実現には重要なことがいくつかあります。1つは、AIはもう活用できるかを問う段階ではなく、当たり前の存在だという認識を持つことです。AIが「どこに使えるのか」ではなく、「使えるところには徹底的に使う」というマインドセットの転換の必要性を意味します。

 もう1つは人です。AIに限らずテクノロジーを使うのは人です。AIなどの「スーパーパワー・テクノロジー(想像を絶するテクノロジー)」を駆使できる人を積極的な人材投資によって創っていくことは、全ての企業や個々人にとって、さらに重要なテーマになるでしょう。今日の対談が、そのきっかけになれば幸いです。