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- AI協働時代の技能継承のカタチ〜技と知を未来につなぐために〜
デザイン業務におけるディレクターの技能継承とAI活用【第6回】

前回まで、製造業を中心にベテラン従事者の退職に伴う技能継承の課題解決に向けたAI(人工知能)技術の活用について考察してきた。今回からは教育やホスピタリティなど非製造業の領域にも視野を広げ、さまざまな技能継承のカタチについて解説していく。今回は、デザイン業務における制作物の品質管理を担うディレクターの技能継承におけるAI活用を考えてみる。
「デザイン業務」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、商品パッケージや広告ビジュアル、イラスト制作、アプリケーションのUI(User Interface)制作といったクリエイティブの制作だろう。
これら業務は、戦略や方針の策定を起点に、デザイナーが制作し、ディレクターが確認・修正するというプロセスを経て完成に至る。デザイン業務はこれまで、ひらめきやセンスと呼ばれるような直感的判断や文脈理解が求められる“人間ならでは”の領域だとされてきた。
しかし近年、AI(人工知能)技術の進化によって、画像や音楽、動画のみならず、Web/モバイルアプリのUIやランディングページ、3D(3次元)モデルなど、さまざまな領域でクリエイティブを生成できるようになってきた。自然言語で要件を入力すれば数秒で、それらしい案をAIシステムが提示するため、初期の検討段階で多様な案を得られる。
この点が評価され、実務に活用するデザイナーも増えている。これはデザイン業界にとって革新的な進歩である一方、従来の「人による品質管理」の前提を揺るがしつつある。
AI活用がもたらす品質管理の限界と構造的課題
AI技術によって生成されたクリエイティブは、多様性とスピードに優れる一方、品質にばらつきが生じやすく、ブランド意図とのかい離や表現リスクを含むケースもある。ディレクターによる見極めや修正が不可欠だが、膨大な数の成果物の全てを人手で確認・修正するのは現実的ではない。
さらに、AI活用が先行する一部の現場では、ガバナンスや承認フローの整備が追いつかず、結果として品質管理が形骸化するリスクも指摘されている。実際、AIシステムが生成した広告表現が炎上する事例が報告されている。このような状況は、AI協働時代におけるクリエイティブ制作の構造的な課題だと言える。
こういった品質管理の課題を解決するには、デザイナー一人ひとりが、成果物に責任を持つディレクター的な視点(技能)を持ち、その品質を自ら判断・改善できる力を備えることが不可欠である。ディレクターが担ってきた視点や技能を、いかにデザイナーに継承するかが鍵になる。
ディレクターが担う品質担保の技能
AI協働時代のデザイナーが継承すべき、クリエイティブの品質を支えるディレクターの技能とは何か。大きく分けると以下の3つである。
リスクを見抜く技能
社会の空気や時代の感性を読み取り、表現がどのように受け止められるかを直感的に察知する力。差別的・不適切な要素を避けるには、単なるルール遵守ではなく、「この表現は人の心にどう響くか」を想像できる感性と経験が必要である。ディレクターは、この“社会の空気を読む力”によって、これまでトラブルを未然に防いできた。
質を見極める技能
作品を一目見て「良い」と感じ取る感性と、経験に裏打ちされた判断軸。数多くの現場で磨かれた“勘どころ”によって完成度や方向性を瞬時に見極め、複数の候補から最適解を選ぶ。この目利き力こそが、プロジェクト全体の質を左右する。
改善へ導く技能
違和感や伸びしろを感じ取る感覚と、それを言語化して制作者に伝える力。「なぜ、この表現がしっくりこないのか」「どうすれば良くなるのか」を直感的に捉え、制作者の意図を尊重しながら最適な方向へ導く。
これらの技能はいずれも、体系的な知識の習得だけでなく、現場での実践や経験の積み重ねを通じて磨かれるものである。色のコントラストといったデザイン原則や、景表法・著作権法といった関連法規など、形式知化できる観点はAI技術でも判断・評価できるが、言語化されていない暗黙知の領域が依然として多い。この暗黙知をいかに抽出し、デザイナーが活用可能な形で継承するかが、今後の品質管理の核心となる。