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バックキャストは未来予測を現実的な行動につなげられるのか【第16回】
未来予測は意味がないと思うあなたへ

前回、未来予測の有用性を起点に、計画の立案や追跡の意義を考察し、未来予測は「盲信せず便利に使うべし」との結論に至りました。その姿勢で未来を考え現在の行動を決めるための思考法に「バックキャスト」があります。今回は、このバックキャストについて考えてみます。
「バックキャスト」とは、まず“ありたい姿”を描き、そこから現在地点にまで戻ってくる道筋を描くことで、今の延長線上とは異なる打ち手を見つける思考法です。
例えば、次のような疑問を持ったことはないでしょうか。
●再び感染症が蔓延したとき、社会はコロナ禍と同じ反応をするのだろうか
●機械翻訳で言語の壁が取り払われたとき、労働市場はどうなるのだろうか
●地域の患者と医師が共に高齢化したとき、医療はどうなるのだろうか
いずれも、業務の合間にふと疑問に思ったり、何らかの拍子に出てきたりする話題かもしれません。この“頭の片隅に残った引っ掛かり”を思い出し「未来は変わるかもしれない」「その時に自分たちには何かできることがあるかもしれない」と考えてみる。それがバックキャストの始まりです。
素直にバックキャストすると他社と同じになりがち
しかし実際のバックキャストには典型的な落とし穴があります。「誰もが合意できる未来予測により、そこに至る素直な道筋を考えると、他社と同じアクションになってしまう」ということです。
例えば「今後の日本は労働力人口が不足する。だからロボットを開発し事業化しよう」と考えても、同業他社は既に取り組み始めているといった具合です。遠い未来のことを考えているにも関わらず既にレッドオーシャンになっているのでは全く取り組む気にはなれません。
この背景は「差異化のために自社の強みを活かそう」と考えると、次第に現在の強みの話に寄ってきてしまうことがあります。結果、バックキャストでも何でもない現在の延長、すなわちフォアキャストになってしまいます。
また「M&A(企業の統合・買収)でケイパビリティを獲得しよう」と考えると、遠い将来に備えたM&Aでは説得力がなかなか出せません。そのため、その未来の実現がいよいよ近づいたタイミングで実行するか、あるいは今すぐにシナジーが出せる相手を選ぶのかなど、いずれにしてもバックキャストが、それほど役に立たない形に収束してしまいます。
あるいは「もっと可能性の低い、でもインパクトの大きな未来予測に大きく賭けよう」と考えるかもしれません。ですが、この考えは、創業者やカリスマ経営者といった力のある人しか提案を通せないでしょう。かくしてバックキャストは“面白いだけでアクションにつながらない”エンタテインメントと化してしまうのです。
バックキャストを差異化につなげる3パターン
とはえい、バックキャストを差異化につなげるために採り得るアクションはいくつかあります。3つのパターンを紹介しましょう。
選択肢1: 薄く・広く張る
経営学者の入山 章栄 氏は「戦略的なイノベーションには金融工学で言うリアルオプションの考え方が重要だ」と指摘しています。つまり「不確実性の高い将来において、継続か中止かの柔軟性を持つプロジェクトや資産は、そうではないプロジェクトや資産に比べて高く評価できる」という評価基準に則り、さまざまな選択肢に薄く・広く投資しておく方が良いということです。
研究の世界でも、選択と集中よりも、薄く・広く予算を配分した方が大きな成果が期待できるという事実が知られているなど、薄く・広くのアプローチの有用性が期待できます。
この考え方とバックキャスト、特に小さな確率で大きなインパクトのある未来への投資とは相性が良く、特に資金力がある一方でイノベーションのジレンマに囚われやすい大企業には、うってつけのアプローチでしょう。
とはいえ、あまりに無差別に投資する訳にもいきません。そこで企業のミッションやパーパスが重要になります。将来も変わらない確たる方向性があれば、さまざまに投資した中で、どの案件が上手くいったとしても問題はないからです。ですから(1)時代を超えて守れそうなミッションやパーパスを定め、(2)確率が低いがインパクトが大きい未来予測の複数シナリオを描き、(3)それぞれに薄く投資するという流れになります。