- Column
- SDVシフトが握る自動車産業の競争力
SDVの技術要件は単一の企業や団体では対応し切れない
「SDVサミット2025」より、AUTOSAR Regional Spokesperson Japan 後藤 正博 氏
AUTOSAR(オートザー)は、車載ソフトウェアの仕様策定を主導する国際的な業界コンソーシアムである。AUTOSAR Regional Spokesperson Japanを務めるデンソー 技術開発推進部 国際標準化室の後藤 正博 氏が「ソフトウェア・ディファインド・ビークル・サミット2025」(主催:インプレス、共催:Open SDV Initiative、2025年6月5日)に登壇し、業界協調に向けたAUTOSARの役割やSDV(Software Defined Vehicle)時代におけるAUTOSARの取り組みなどを説明した。
「AUTOSAR(オートザー)は20年間にわたり車載ソフトウェアの標準化をリードしてきた。この実績を基盤に、SDV(Software Defined Vehicle)時代の新たな要請にも応えていきたいと考えている」--。AUTOSAR Regional Spokesperson Japanを務めるデンソー 技術開発推進部 国際標準化室の後藤 正博 氏は、AUTOSARの方向性をこう語る(写真1)。
2003年に設立されたAUTOSARは、車載ソフトウェアの標準化に取り組む業界コンソーシアムである。現在は約360社がパートナーとして参加する。
SDVのための仕様は各種標準化団体の連携・協力が必要に
後藤氏はSDVの最小要件を(1)重要な機能が主にソフトウェアによって実現されていること、(2)実装されている機能、すなわちソフトウェアが更新でき、さらに新機能を追加できること、と定義する。
こうしたSDVの実現が見込めるようになった背景には「車両のE/E(電気/電子)アーキテクチャーの進化がある」と後藤氏は説明する。
1970年代のマイクロプロセサ導入時は、個別のECU(Engine Control Unit)による機能別制御が主流だった。その後、CAN(Controller Area Network)ネットワークによる機能連携と分散制御、2000年代のドメインコントローラーによる機能統合、そして高性能なビークルコンピューターを中心とした「ゾーンアーキテクチャー」へと高度化しようとしている。
この進化に合わせてAUTOSARは、2003年に「Classic Platform」、2016年に「Adaptive Platform」、2024年には「Automotive API(Application Programming Interface)」を、それぞれ標準として制定した(図1)。
そして今「2030年以降のSDV時代に向けた新たな取り組みが始まっている」(後藤氏)という。「SDVのコンセプトを実現するためには、高度かつ多岐に渡る技術開発が必要」(同)だからだ。具体的には、リアルタイム分散処理、ハードウェア・ソフトウェアの分離、高速・低遅延通信、車両信号の標準化、セキュリティ確保などである。
そこでは「従来の自動車開発の枠を超えた、広範囲な技術領域への対応が求められる」(後藤氏)。上記の技術要件は「単一の企業や団体では対応し切れない複雑さがあり、各組織の連携が不可欠」(同)である。
すでにSDV開発の最前線では、組織を超えた協力体制が生まれつつあるという。例えばAUTOSARが標準化に取り組んでいるAutomotive APIには「さまざまな標準化団体の貢献や、OSS(Open Source Software)の開発成果が取り入れられている」(後藤氏)
特に車両とクラウド間のデータ連携の標準化は、コネクテッドカーの技術アライアンス「COVESA(Connected Vehicle Systems Alliance、旧GENIVIアライアンス)」とAUTOSARが2022年10月から協力して開発を進めている。COVESAが車両の標準データモデルである「VSS(Vehicle Signal Specification)」とAPIの仕様を、AUTOSARが車両内での実装手法と開発プロセスを担当する。
この共同開発では「SDV実現のためには避けて通れない『アプリケーション(車両の内外を問わない)が車両データをどうやって取得するか、あるいはアプリケーションがどうやって車両データを更新するか』という課題に対する統一的な手法の確立が期待されている」(後藤氏)という。
HPC用ミドルウェア開発でAUTOSARとEclipse SDVが協力
2023年に発足したSDV普及に向けたアライアンス「SDV Alliance」では、AUTOSARのほか、COVESAに加え、統合開発環境を扱う「Eclipse SDV」、車載ソフトウェアの開発アーキテクチャーを扱う「SOAFEE」の4団体が連携している。
SDV Allianceの具体的な活動内容は「現在検討中」(後藤氏)だが、それに先行しAUTOSARは、Eclipse SDVが立ち上げた「Safe Open Vehicle Core(S-CORE)」プロジェクトとの協調を検討している。
S-COREは、ハードウェアに依存しないHPC(High Performance Computing)用ミドルウェアを開発するためのオープンソースプロジェクトである。独メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)と独BMWの車両メーカーと、自動車向けミドルウェアの独Qorixや独ETAS、米アクセンチュアなどが中心メンバーだ。「各社それぞれが独自に開発していた車載ソフトウェアの基盤部分を、業界全体の共通プラットフォームとして提供する」(後藤氏)のが目標だ。