- Column
- SDVシフトが握る自動車産業の競争力
独BMWのSDVを支えるE/Eアーキテクチャーとソフトウェア開発体制
「SDVサミット2025」より、BMW Group Japan デベロップメント・ジャパン本部長のルッツ・ロートハルト氏
ゾーナルアーキテクチャーの導入により、バスシステムが最適化されワイヤーハーネスが削減された。加えてBMWでは「機械式ヒューズに代えて電子的に制御できる『eヒューズ』を導入し、電力システムの配置も最適化した」(ロートハルト氏)。その違いは、2021年発売の「BMW i5」と2025年発売の「ノイエ・クラッセ(Neue Klasse)」のE/Eアーキテクチャーを比べれば一目瞭然である(図2)。
従来の電力システムには課題があったとロートハルト氏は説明する。「2つの大きなヒューズボックスがスピードメーターの下とトランクの後ろに、全て電力は、いずれかを経由して制御ユニットに供給する必要があった。そのため太い電源ケーブルが広範囲に張り巡らされ、多くのスペースを占めるだけでなく、ヒューズを交換するための物理的なアクセスも確保しなければならないなど、極めて柔軟性に欠けていた」
そこでBMWは2025年にeヒューズを本格導入した。「eヒューズは基本的にインテリジェントなトランジスタだ。過電流が発生すると自動的に回路を遮断し、それを電子制御によって復旧できる。これにより車の一部機能をオフにする省エネルギー設定や、故障時の部分的な機能停止が可能になった」(ロートハルト氏)という。
デファクトとオープンエコシステムの活用がベスト
一方、ソフトウェア開発においても、開発プロセスの効率化や増大する開発量への対応といった課題が顕在化していた。これらに対しBMWでは「開発基盤にデファクトスタンダード(業界標準)とオープンエコシステムを採用することで効率化を図り、開発拠点をグローバル展開することで開発量に対応してきた」(ロートハルト氏)という。
非効率だった開発事例としてロートハルト氏はナビゲーションシステムを挙げ、次のように説明する。
「BMWはドイツ企業であり、購買部門は3〜5年ごとに調達先を変更しようとする。ナビゲーションシステムのサプライヤーは過去10年間に3回変更された。そのたびに開発時間の約7割が、システムのレベルを以前と同じにまで戻すために費やされた。変更のたびにゼロから開発するためで、新機能の追加などに使える開発時間は残りの3割程度だった」
「もちろん、サプライヤーを変更しなければ、このような問題は起きない。だが変更したとしても、デファクトスタンダードやオープンエコシステムを利用していれば、サプライヤーが変わるたびにゼロから作り直すようなことはなくなる」とロートハルト氏は指摘する。
そのうえでロートハルト氏は「独自の標準を作るのも良いが、それは結局、自分たちしか使わないため本当の意味での標準にはならない。外の世界を見回し『他社はどうしているのか』『他社が共通して使っているものは何か』を調べ、デファクトスタンダードやオープンシステムを活用することが結局はベストなのだ」と強調する。
この考え方は「半導体についても同様だ」(ロートハルト氏)という。「半導体業界に自動車用の特別なデバイスを作るよう依頼する意味はない。スマートフォンやPC、サーバー向けに既にある技術で十分だ」(同)
グローバルなソフトウェア開発体制「CodeCraft」を構築
E/Eシステムが自動車に占める割合は高まる一方である。ロートハルト氏は「新車の開発コストに占める割合は2018年比で約3倍になり、その中でソフトウェアは最も開発コストがかかる部分だ」と指摘し、その変化を示す数字を挙げる。
●自動車用ソフトウェアの複雑さは2010年から2020年の間に4倍に
●自動車のセキュリティに必要な対策は2018年から2025年の間に8倍に
●ソフトウェア関連のリコールが2005年から2023年の間に7倍に
こうした状況に対処するためにBMWは「CodeCraft」と呼ぶグローバルな開発者ネットワークを展開し「世界中の1万人を超えるプログラマーと協業している」(ロートハルト氏)という。CodeCraftは、パブリッククラウド上で稼働するソースコードのリポジトリで、継続的インテグレーション(CI:Continuous Integration)のための基盤だ。
開発拠点としては2018年にポルトガルの「Critical Techworks」、2021年には中国に「IA BA TechWorks」、2024年にはインドに「BMW Techworks India」をそれぞれ設立している。ロートハルト氏は「CodeCraftがなければ世界中で作成したソフトウェアの統合は悪夢になる。BMWのソフトウェア開発には必要不可欠だ」と説明する。
そのうえでロートハルト氏は「これらの技術的な取り組みの先にあるのは顧客への価値提供だ。SDV(Software Defined Vehicle)を実現すれば、直感的で使いやすいインタフェースや、ドライバーへの適切なサポート、常にアップデートされる種々の外部ソフトウェアの利用などが顧客に提供できるようになる」と力を込める。