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  • 金融業界におけるAI時代の技術実装の道筋

JPX総研、市場取引の活性化に向けた生成AIサービスを開発し提供

「Fintech Business Informatics 2026」より、JPX総研 フロンティア戦略部 主任 三村 優里香 氏

森 英信(アンジー)
2026年3月2日

サービス2:非構造化データの構造化

 上場会社が公表したPDF形式の情報を構造化データに変換する。

 例えば役員のスキル情報を、多くの上場会社が株主総会招集通知で公表している。ただ各社で表記や分類が異なるため「スキル情報を生成AI技術で抽出し、JPX総研独自の基準で8つの項目に再プロットしている」(三村氏)。項目を統一することで、異なる企業や業界での横並び比較ができる。

 2025年11月には自己株式取得データの構造化サービスを開始した。同データの開示には統一フォーマットがなく、PDF形式で公表されるケースが大半だった。これも、取得予定株数や取得期間、取得方法などの項目を抽出し、構造化データとして提供する。

サービス3:開示資料のAI検索サービス「J-LENS」

 2025年12月9日に公開した。意味や文脈を数値変換する「ベクトル検索」技術を使い、ルールベースのキーワード検索では難しかった自然文による問いかけで、言葉の揺らぎに対応しながらニュアンスを含めた検索を可能にした。モバイル環境では音声でも入力できる(図3)。

図3:開示資料のAI検索サービス「J-LENS」の概要

 例えば「配当予想が20%以上増加した会社の開示を教えて」と入力すれば、該当する開示を抽出し表示する。「『利上げについて言及しているが、収益への影響は大きくないとしている資料』といった否定形や『海外展開の発表の中で成長戦略の重点地域や投資額を明記した開示』といった抽象的な質問にも対応できる」(三村氏)とする。

 検索結果には抽出理由を付加することで回答の透明性を確保している。ただ三村氏は「網羅的な検索がしたい場合はルールベースの検索の方が向いている」とし「ルールベース検索と生成AI検索は補完の関係にある。使い分けが重要だ」(同)と指摘する。

ビジネス部門とエンジニア部門が一体になり開発を加速

 これらのサービスはJPX総研が独自に開発した。三村氏は「ビジネス部門とエンジニア部門が一体になった“ワンチーム開発”により短期間で実現できた」と強調する(図4)。

図4:ビジネス部門とエンジニア部門が一体になった“ワンチーム開発”が短期開発を可能にした

 「『これをやりたい』『こうした画面にしたい』といったビジネス部門のアイデアをエンジニアが一緒になって実装し、どんどん改善したり、精度を上げたりすることで、かなりスピーディーに開発できた」と三村氏は振り返る。実際、J-LENSは本格的な開発開始から4カ月でベータ版をリリースしている。

 開発速度に加え、生成AIの回答精度向上にも寄与している。あるサービスでは「精度の指標が74点から85点に増え、トークン消費が2割以下に減少した」(三村氏)。改善の鍵になったのが「プロンプト設計とデータ選定」(三村氏)だ。そこでも「エンジニアだけでなく、実務に精通したビジネス部門の経験値が不可欠だった」(同)という。

 UX(User Experience:ユーザー体験)も重視した。生成AI技術では「精度はどうしても100点にはならないため、利用者の期待値をコントロールできるようなUI(User Interface)/UXの設計が重要になる。投資家だけでなくサービスを利用する上場会社やAI技術に詳しくない一般利用者まで、多様なステークホルダーに配慮した設計が求められる」(三村氏)との考えからだ。

 そのため「最初から完成版を目指さない、アジャイル(俊敏)なアプローチもJPX総研のAI活用を支える哲学だ」と三村氏は説明する。

開示情報を投資以外の用途にも使えるための機能と情報の提供へ

 次の段階として三村氏は「J-LENSで検索した情報をどう活用するか」を見据えている。「分析機能や、株価情報や企業情報といった関連情報の提供などの充実を図り、UXを拡張していく」(同)考えだ。

 開示資料の活用範囲を投資以外にも広げる可能性も示唆する。三村氏は「上場会社のIR担当者が練りに練った開示資料は情報の宝庫だ。自社の魅力や実態を伝えるために作成している資料だけに、活用の幅は、かなり幅広いのではないか」とみる。これら機能を集約するためのポータルサイト「JPxData Portal」の運営も開始した。

 三村氏は「今後もサービスを増やし、ブラッシュアップし続けることで市場の活性化に貢献していきたい。改善のためにぜひ、利用していただき、フィードバックなどを寄せていただきたい」と呼びかける。