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  • 金融業界におけるAI時代の技術実装の道筋

生成AI時代を迎え金融業界におけるオルタナティブデータ活用が拡大

「Fintech Business Informatics 2026」より、オルタナティブデータ推進協議会 理事 北山 朝也 氏

江嶋 徹
2026年3月18日

 ハッカソンではさらに、分析結果のアウトプットを工夫した。ジョブチェーンの最終段階に、それまでの分析内容を自動的に整理し、レポート形式で出力する仕組みを導入。「分析に用いたデータやテーマ、仮説、手法、得られたインサイト(洞察)、今後の検討事項といった要素を、軽量マークアップ言語のMarkdown形式でまとめられ、そのまま成果発表に利用できた」(北山氏)。結果として「参加者を“分析そのもの”に集中させる効果が生まれた」(同)とする。

 この分析基盤の設計思想は「実務におけるアイデア検証のスピードを大きく引き上げる可能性を持つ」と北山氏は期待する。「一度で完璧に検証するよりも、仮説を素早く試し、次につなげることが重要」(同)だからだ。

 今回のハッカソンには、金融・証券会社や、データテック企業、大学などの企業・組織が参加し、データプロバイダー11社が提供した種々のオルタナティブデータを組み合わせた分析と検証が実施された。

 北山氏は、上位チームのレポートについて「株価や指数といった構造化データに、ニュースやCM放映データ、求人情報、気象データなどを掛け合わせ、複数の視点から仮説を検証するアプローチが多く見られた点だ」と評する。

 例えば、あるチームは大手通信キャリアにおける適性診断をテーマに、テレビ番組の露出データと企業のCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)データ、顧客の個人特性などを組み合わせて分析。個人の特性と志向が企業文化や業績と合致すれば、長期的なキャリアパスが描けるという仮説を検証した。

 上位の事例に共通していたのは「分析テーマの柔軟さと検証スピードの速さだ」と北山氏は強調する。仮説を立て、データを組み合わせ、結果を見て、次の仮説に進むサイクルが「これまでとは比較にならないほど短時間で回されていた。以前なら、面白そうなアイデアがあっても、検証に入る前に諦めてしまうケースが多かった」(同)

 分析結果の表現にも特徴があった。「生成AI技術を活用して分析の背景や示唆を言語化し、ストーリーとしてまとめるレポートが多く見られた」(北山氏)という。「分析結果を意思決定につなげる上で重要な要素であり、実務への応用を強く意識した内容になっていた」(同)

 ハッカソンからは「非構造化データを含む多様な情報を横断的に扱い、短いサイクルで仮説検証を回すという、従来は一部の専門家に限られていたアプローチが、現実的な選択肢として見え始めてきた」と北山氏は話す。

名寄せや統合、評価、データ量の増大に伴う運用コストなどが課題に

 一方で、可能性が広がることによる課題も浮上した。北山氏がまず挙げるのが、データの名寄せや実体統合の難しさである。「オルタナティブデータは提供元や提供形式が多様であり、同一企業や同一事象をどう結び付けるかは、依然として大きな問題点だ。生成AI技術による補助は有効だが、完全に自動化できるわけではなく、人の判断が欠かせない場面も多い」(同)とする。

 評価も重要なテーマだ。「オルタナティブデータを用いた分析は、必ずしも短期的な予測精度の向上だけを目的にしていない。しかし金融の現場では、バックテストや評価指標が求められ、どのような観点で成果を測り、どこまでを“有効”と判断するのかといった評価の枠組みづくりは避けて通れない」と北山氏は指摘する。

 データ量の増大に伴うコストや運用負荷も無視できない。多様なデータを常時取り込み、分析し続けるには「基盤のスケーラビリティやコスト管理が重要になる。ハッカソンで実験的に構築された環境も、実務で継続的に運用するとなれば、SLA(Service Level Agreement:サービスレベル契約)やガバナンスを含めた設計が必要になる」(北山氏)

 それでも北山氏は「AI×オルタナティブデータ活用の流れは後戻りしない」と見る。AI技術とオルタナティブデータの組み合わせは、金融分析のあり方そのものを変えつつある。「分析を試行する環境が整った今、次に問われるのは、それをどのように実務に根付かせていくかだ」と北山氏は力を込める。