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  • 金融業界におけるAI時代の技術実装の道筋

金融業界におけるAI・データ活用は個社最適から知見の共有で進む

「Fintech Business Informatics 2026」より、金融データ活用推進協会 代表理事 岡田 拓郎 氏

阿部 欽一
2026年3月25日

金融業界におけるAI(人工知能)技術とデータの活用は、実装フェーズに移行しつつある。一方で、ガバナンスや人材、ユースケースの創出といった課題は多くの金融機関に共通する悩みでもある。金融データ活用推進協会(FDUA)代表理事の岡田 拓郎 氏が「Fintech Business Informatics 2026」(主催:本プログラム委員会、共催:インプレス、2026年1月20日)に登壇し、業界横断での取り組みの意義や生成AI/AIエージェントを巡る実践的な論点について説明した。

 「金融業界のAI(人工知能)活用は、もはや一部の先進的な金融機関だけが取り組むものではなくなっている。これからは、AI技術とデータの活用に関する個社最適の取り組みを、いかに金融業界全体の取り組みに変えるかが重要だ」--。金融データ活用推進協会(FDUA:Financial Data Utilizing Association)代表理事の岡田 拓郎 氏は、こう指摘する。同氏は、Cross Trustホールディングス代表取締役社長でありTrust 取締役会長でもある。

写真1:金融データ活用推進協会(FDUA)代表理事で、Cross Trustホールディングス代表取締役社長でありTrust 取締役会長でもある岡田 拓郎 氏

金融業界におけるAI・データ活用は「個社最適」から「業界横断」へ

 金融業界における生成AI技術の活用が進んでいる。メガバンクや地方銀行の違いや、保険やカード、信託といった業態の違いを越え、金融業界全体がAI・データの活用に向き合おうとしている。その背景には「生成AI技術の登場により、これまで実験的や限定的だった取り組みが、実務レベルで現実的な選択肢になりつつあるという大きな変化がある」と岡田氏は説明する。

 ただ現状は「各社それぞれが努力している一方で、非競争領域にまで個別最適が続いている」(岡田氏)。成功事例の共有や人材育成、データ活用の標準化といった領域は「本来であれば業界横断で進めた方が効率的であり、結果として競争力の底上げにつながるはずだ」(同)とする。

 そうした問題意識から2022年に設立されたのが金融データ活用推進協会(FDUA)だ。「金融データで人と組織の可能性をアップデートしよう」というミッションを掲げ、金融機関やパートナー企業、官公庁と連携しながら「実務目線でのAI・データ活用を推進している」と岡田氏は説明する(図1)。

図1:金融データ活用推進協会(FDUA)の概要

 FDUAの特徴を岡田氏は「単なる情報共有の場にとどまらず、具体的な成果物づくりに踏み込んでいる点にある」とする。具体的には、生成AIガイドラインの策定や金融業界横断のデータ活用スタンダードの検討、金融庁と共催するデータコンペティションの開催など「非競争領域を中心に“業界としての共通基盤”を整備する活動を進めている」(同)

 とりわけ岡田氏が強調するのが人材に対する見方の転換である。「金融機関には『AI人材がいない』とよく言われる。しかし実際は『いない』のではなく『発掘されていない』だけだ」(同)。FDUAが開くデータコンペティションでは「営業店や事務部門など、これまでAI技術とは無縁と見られてきた部署からも優秀な人材が次々と見つかっている」(同)という。

 そうした“発掘”人材を「社内外のコミュニティで育成し、適切な役割につなげていくことが、これからの金融業界におけるAI技術活用の成否を左右する。さらに個社で抱え込むのではなく、業界全体で知見と人材を循環させていくことが重要だ」と岡田氏は改めて強調する。

金融庁がAI活用に「チャレンジしないリスク」を明示

 金融業界におけるAI・データ活用を語る上では、制度面の動向とりわけ金融庁の姿勢の変化は見逃せない論点だ。岡田氏は、2025年3月に金融庁が公表した『AIディスカッションペーパー(第1.0版)』を「業界にとって大きな転換点だ」と位置付ける(図2)。

図2:金融庁が2025年3月に公表した『AIディスカッションペーパー(第1.0版)』の概要

 その理由を岡田氏は「これまでの金融庁は、どちらかといえば『リスクをどう抑えるか』という観点からAI活用を見てきた。しかし、このディスカッションペーパーでは『チャレンジしないリスク』が明確に打ち出された。これは金融機関にとって非常に象徴的なメッセージだ」と説明する。

 同ペーパーは金融分野におけるAI活用の論点を(1)従来型AIと生成AIに共通する課題、(2)生成AIによって難化した課題、(3)生成AIがもたらした新たな課題の3つに整理している。「生成AIが登場したことで、個人情報保護や社内教育、AIガバナンスの構築といったテーマが、これまで以上に重要性を増していることが明確に示された」(岡田氏)