• Column
  • 匠の技とAI技術が融合する“人間中心”の製造DX

現場の知や技を融合させた日本型DXで、人間主役の変革へと舵を切れ

「Industrial Transformation Day 2026」より、荏原製作所 DCXグループ DXアーキテクトの助松 裕一 氏

江嶋 徹
2026年6月10日

 文化的障壁にとらわれる一方で、テクノロジーの潮流は急速に動いている。助松氏は「CES 2026」で米NVIDIA CEO(最高経営責任者)のジェンスン・フアン(Jensen Huang)氏が、フィジカルAIの本格展開を宣言したことに触れ「すぐにでもデジタルツイン化に舵を切らなければ、競争から脱落しかねない厳しいタイミングに来ている」と危機感を露わにする。

 フィジカルAIの本質を、助松氏は「物理世界における重力や摩擦までをシミュレーションし、AI技術が『感じ』『動き』『学ぶ』という身体的な段階に入ったこと」と分析する。この能力が「日本人の伝統的な強みと正面から衝突する」というのが助松氏の見解だ。「AI技術は手間を惜しまず、面倒くさがらず、実直に仕事をやり遂げる。これは日本人が最も得意としてきた職人気質と完全に重なっている」(同)

 さらに事態は「海外発の最先端AIを“使いこなす”だけで解決するほど、事は単純ではない」(助松氏)という。日本人が誇る技能・判断・哲学が学習データとしてプラットフォーマーに吸い上げられ「標準化や収益化の権利がすべて海外に握られかねない」(同)からだ。

 そうなれば日本の現場に人は残っても、実質的な意思決定は外部に帰属する。この主従逆転によって『文化的AI植民地化』に陥りかねない」と助松氏は警鐘を鳴らす。

「HX」による人の変革こそが日本型DXの設計図

 では、日本の製造業はどう立ち向かうべきか。助松氏が提唱するのが「DX=HX」という考え方への転換だ。欧米型のDXがシステム変革を主体として人間を適応させようとするのに対し「日本型DXは人間の変革を主体とし、システムはあくまでもそれを補助する手段として位置付けるべき」(助松氏)だという(図4)。

図4:HX(Human Transformation)が日本型DXに不可欠な理由

 HXとは単にスキルを習得したり、リスキリングしたりする試みではない。それは「“誰が・なぜ・どう判断するのか”という意思決定の本質を人に残す変革だ」(助松氏)という。荏原製作所が実践する「EBARA-D3は、まさにこのHXを体現するプロジェクトだ」と助松氏は力を込める。

 そこではBeyondverseがデジタル世界で「見える化・最適化」を担い、DOJOがフィジカル世界での「できる化・受け継ぐ化」を担う。両者の融合によって「デジタルと人の知が循環し、現場・人材・組織が自律的に進化し続ける仕組みを目指している」(助松氏)という。

 講演の最後に、助松氏は「日本独自のユースケースを皆さんとシェアし、掛け合わせて育てていく必要がある」と呼び掛ける。そして「Re-DESIGNED JAPAN for Re-MADE in JAPAN」というキャッチフレーズを掲げ「1980年代の『メイドインジャパン』を現代のテクノロジーで再構築していきたい」と締めくくった。