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- 実測データとAI技術で高めるデジタルツインの価値
部材ごとの違いをデータで管理し、規格化に頼らない建築生産を実践する
「インダストリアルデジタルツインサミット2026」より、東京大学大学院 特任教授の池田 靖史 氏
形の異なる部材や曲がった立ち木、解体現場の廃材などを設計・施工に生かす研究を重ねる中で見えてきたのは、規格化によって複雑さを排除してきた工業化とは逆の、複雑さをデータで扱う建築生産の方向性だったという。東京大学 大学院工学系研究科 建築学専攻 特任教授の池田 靖史 氏が「インダストリアルデジタルツインサミット2026」(主催:同プログラム委員会/サイバー・フィジカル・エンジニアリング技術研究組合、2026年7月8日)に登壇し、自動化した丸ノコによる本棚製作から、AR(Augmented Reality:拡張現実)を使った施工支援、解体現場の3D(3次元)スキャンまで、研究室での実践事例を紹介した。
「デザインとものづくりを分離して考えるのではなく、ものづくりがいかにデザインを変えるかが大事だ」--。東京大学 大学院工学系研究科 建築学専攻 特任教授の池田 靖史 氏は、こう話す(写真1)。
池田氏が建築と情報技術との関係を追究し始めたのは1980年代後半だ。きっかけは大学院時代に「幕張メッセ」(千葉市美浜区)の設計で3次元座標計算による作図支援に携わったことにある。以後、3次元モデリング、コンピュテーショナルデザイン、デジタルファブリケーションへと研究領域を広げてきた。
その後は慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)で約25年間教鞭をとり、2020年には建築情報学会を設立。2022年からは東京大学で、建築学と情報学を横断する「建築情報学」の確立に取り組んでいる。
ものづくりの手法からデザインを導き出す
池田氏の言う「建設のデジタルツイン」とは、デジタル空間に建築の設計情報を保持するだけにとどまらない。そのデータを加工や組み立ての現場につなぎ、現実のものづくりとの間で往復させる。この技術を既存作業の効率化に使うだけでなく、池田氏は「現場にデジタルの技法を持ち込み、そこから新しいデザインを生み出す『デザインとものづくりの共進化』を目指している」という。
最初の実践の場は、東大着任直後に制作した研究室の本棚だった。池田氏は「まず先に、棚のデザインではなく道具の方に手を付けた」という。市販の丸ノコに簡単なロボティクスを組み込み、刃の角度調節をステッピングモーターで自動化した。コンピューターの指定通りの角度で刃が動くため、精度を出しにくい半端な角度での切断も狂いなくこなす。
では、この切断方法だからこそ成り立つデザインは何か。池田氏がたどり着いたのは「斜めに交差する部材を交点でかみ合わせるだけで組み上がる三角形の格子」だった(図1)。ここに「金物は一切使わない」(同)という。
1本ずつ違う部材をデータで管理する
しばらくしてこの本棚を見たショップオーナーから、店舗外観の製作が舞い込んだ。課題となったのが「大きさも加工方法も一つひとつ異なる部材を、データでどう管理し、正確な加工と組み立てにつなげるか」(池田氏)である。
縦格子で組み上がる独特な外観を実現するために、池田氏らは「規格化して複雑さを減らすのではなく、部材ごとの違いを残したまま製作する」というアプローチを採る。そのために「製作工程そのものをデータ中心に設計した」(同)
具体的には、全部品をQRコードで管理。その情報を基に、CNC(Computerized Numerical Control:コンピューター数値制御)加工機に対応する部分を切り出した(図2)。加工機で扱えない部分については、あらかじめ部材を切断角度ごとに並べ替え、丸ノコの角度を少しずつ変えながら順番に切った。
組み立てでは、上方に設置したプロジェクターから作業面に「どこにどの部品を置くべきか」を投影し、投影型のAR(Augmented Reality:拡張現実)で作業者をガイドした。すべてを機械に任せるのではなく「部材をデータで識別し、加工順や配置を人間に分かる形で示すことで、形も加工方法も異なる部材を組み上げていった」(池田氏)のである。


