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デジタル変革は「Design Thinking」よりも「Design Doing」で

デザイン思考型開発手がけるStarのマイケル・シュレイブマンCEO

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年5月15日

――デザイナーやエンジニアといった専門家は多くの企業が抱えている。そうした人材がいながら、Starの支援を受けないとデザイン思考による開発が難しいのはなぜか。

 確かに大手企業などは多くの人材を抱えており、それぞれの能力はある。だが大企業の組織やプロセスは複雑であり、それぞれが自らの枠のなかで“惰性”で役割を果たしているだけになってしまっているからだ。

 これまでの開発プロセスは線形的でステップバイステップに積み上げるスタイルである。そこでの専門家の役割は、それぞれの専門領域の課題を解くことだ。プロダクトマネジャーがマーケティングした結果から要求を導き出し、デザイナーはデザインを、エンジニアは機能の実現を解決すれば良い。

 加えて歴史がある企業ほど社内のプロセスが確立されており、それを変えることが難しい。米Googleなどのベンチャー企業やスタートアップ企業など若い会社ほどDesign Thinkingを採り入れやすいのは、このためだ。

 Design Thinkingでは、デザイナーもエンジニアが一緒になって課題そのものから見出していかねばならない。Design Thinkingの象徴的存在のように取り上げられることが多い付せん紙も、多くのアイデアを集めて共有するのに適したツールとして利用しているわけだ。

 その意味では、ワークショップなどを開催すれば大企業のデザイナーやエンジニアたちも多数のアイデアを出し合えるように、Design Thinkingの導入そのものは容易だと言える。

 重要なことは、それを“Design Doing(デザインドゥーイング)” すなわち、アイデアを出すだけでなく、それを実際に製品/サービスにするための行動ができるかどうかである。

 さらにこれからは、人と人の関係だけでなく、人とAI(人工知能)、人とロボットといった関係性も生まれてくるだけに、より広い視野とコラボレーションが求められてくる。Design Thinkingの方法論も“Design Thinking 2.0”などに進化する必要があるかもしれない。

――日本企業との開発経験において、デザイン思考型開発への取り組み方に海外企業との違いはあるか。

 日本企業はデザインという能力に非常に大きな期待を持っている。そのためか、デザインの成果だけを持ち帰り、エンジニアリングは自社のみで実施しようとする。両者が同じテーブルに着きアイデアを出し合うことに包括的な価値があるにも関わらずだ。

 デザインの段階にエンジニアが同席しなければ、議論した内容を改めて伝達するというロスが発生してしまう。欧米ではデザイン思考型開発で両者が同席しないということはない。これは、日本がまだエンジニアリング志向に留まり、デザインは付随物に位置付けているからだろう。

 たとえば自動車業界は5〜7年間隔でのフルモデルチェンジを前提にビジネスが構築されており、そのメンタリティは非常に線形的だ。製品開発はスケジュールが最優先で、それに合わせて、いつ、何をやるかがすべて計画されている。

 これに対し米テスラや中国のニーオ(NIO)といったEV(電気自動車)メーカーなどスタートアップ企業の考え方はアジャイルであり、デザイン思考型開発を受け入れている。彼らの開発スタイルは既存の自動車メーカーとは全く異なっている。

――大企業がDesign Doingになるためには何が必要か。

 Design Doingにはトップダウンの強制力が必要だ。そのため欧米では、Chief Digital OfficerやChief Design Officeなど新しい役割の担当役員を置いている。

 そのうえでDesign Doingに変わっていくためのルールが必要になる。勤務時間の20%は本業以外のことに使えるとしたGoogleの「20%ルール」といったものだ。ラボや、めい想のための部屋なども有効かもしれない。いずれも日常の課題から離れ新たな課題に取り組み、各人が創造的になるためである。

 ここでもDesign Thinkingのワークショップなどで満足してはいけない。それはアイデアを共有するという最初のステップに過ぎないからだ。冒頭で説明したように、デザイン思考型開発では、アイデアからプロトタイプを作成し、それをテストし洗練させるというプロセスを素早く繰り返す。アイデアを出せば終わりではない。