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デジタル変革は「Design Thinking」よりも「Design Doing」で

デザイン思考型開発手がけるStarのマイケル・シュレイブマンCEO

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年5月15日

――最近はコンサルティング会社や大手IT企業がデザイン会社を買収するなどしデザイン思考型開発のサービスを強化してきている。

 コンサルティング会社によるデザイン会社のM&A(企業の買収・統合)は株価対策という間違った理由によるものだ。たとえばインドの大手アウトソーシング企業と北欧のデザイン会社では企業文化が全く異なる。両社が本当に融合できるだろうか。

 そもそも、自由な発想で制限を持たないデザイナーと、要求されたスペックを満たそうとするエンジニアは緊張関係にある。にもかかわらず、先にも指摘したように、デザイン会社を買収するようなコンサルティング会社は大手であり、プロセスが複雑で固まっている。デザイナーを受け入れようとしても文化はそう簡単には変わらない。

 これに対し当社は創業11年目とまだ若いし、創業時からデザイナーとエンジニアが協調して働く環境にあり、両者が共通の理解の下に行動している。「元々」と「後付け」には大きな違いがある。事実、そうしたM&Aが起こると、買収されたデザイン会社から当社に移籍してくるデザイナーは少なくない。

――Starも、今後10年、20年と事業展開し年月を経れば、大手同様にプロセスが固定化されデザイン思考が取れなくなるのではないか。

 その可能性は完全には否定できないが、当社は、そうならないためのプリンシプル(原理/原則)を持っている。常に進化できるようにチャレンジャーの文化を持つということだ。

 Starはグローバルに事業展開し12都市にオフィスを置いているが、中央集権的な“本社”はない。いずれもが同じレベルにある“フラット”な関係で、全拠点が本社だとも言える。これは常にベターな意志決定を下したいからだ。

 私自身、MBA(経営学修士)で金融とマーケティングを修めたが、そこで学んだのは、各分野を成功するためのテクニックに過ぎない。MBAには、リーダーシップと行動の組織学が欠けている。たとえ成長しても、常にクリエーティブな状態にあるためには、どうすべきかを考えることが重要になる。

 フラットな組織は、そのための必要条件の1つだ。当社では、多くの文化や人材、アイデアなどが世界中から集まっていることが成長の原動力だ。これは顧客と当社がチームとして働き成果を出す過程においても、相互に文化的な影響を請け合うことが次の成長につながっていく。これこそがコクリエーション(共創)だ。

 なので当社のスタッフには、シェアによって動く文化と、チャレンジする姿勢を身に付けることを求めている。評価を先に求めるのではなく、まずはチャレンジし、上手くいかなければ後から誤れば良い。

――日本市場でのこれからのサービス展開は。

 これまでも日本企業へサービスを提供してきたが、これまで以上にデジタルトランスフォーメーションへのニーズは高まっていると認識しているので、そのために、何を、どう変えていくかを支援してきたい。併せてアジャイル開発への取り組みについてもサービス展開を図る。

 サービス内容についてはグローバルに「Star Strategy」「Star Design」「Star Engineering」の3ユニットに整理した。Strategyではビジネスのグランドデザインを描きエクスペリエンス戦略を構築する。Designでは、その戦略に沿ったデザイン戦略の立案・実行を支援する。Engineeringは、テクノロジーによる実現可能性やビジネスとしての可能性を実証するためにプロトタイプの開発やPoC(概念検証)を実施し、製品/サービス、あるいはプラットフォームなどを開発する。

 またNECやNTTデータといったインテグレーターともトップ層とは長期に渡り関係を築いてきた。現在、これからどう協業するかについて具体的な検討を始めたところだ。

――日本は、企業のデジタルトランスフォーメーションの先に社会のデジタル化を目指す「Society 5.0(超スマート社会)構想を打ち出している。社会サービスの分野でのデザイン思考型開発は機能するか。

 Society 5.0に向けては、Design Thinkingはベストな方法論になるだろう。不確実な問題の発見や新しい利用法の発見など、課題そのものが分からないなかで解決策を模索し続けなければならないからだ。より多くの観点や、より多くのステークホルダーが対象になることもある。

 自動運転などは好例だ。これまでになく、現時点も存在していない機能を前提にビジネスを設計していかなければならないのだから、デザイン思考による正しい課題の設定が不可欠になる。

 当社はすでに、コネクティビティやAI(人工知能)/ディープラーニング、関連する規制といった観点から複数のプロジェクトに取り組んでおり、Society 5.0にも貢献できるだろう。