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高齢化社会を視野に注目が集るデジタルヘルス、エイジテック、アクセシビリティ

「CES 2024」から、デジタルヘルス領域のトレンド

野々下 裕子(NOISIA:テックジャーナリスト)
2024年3月29日

ウェルネステックから自宅療養まで対象範囲が拡大

 CESは2024年のテックトレンドとして、「デジタルヘルスがウェルネステックと融合する方向に向かっている」ことを挙げている。ウェルネステックとは、運動量や栄養、睡眠などをアプリケーションやデジタルデバイスで管理したり、バーチャルインストラクターがサポートしたりするテクノロジーを指す。

 それが、デバイスによるセンシングやデータ分析の精度が高まってきたことで、病気の治療をサポートするといった目的にまで対応できるとの期待が高まっている。そうした効果がFDA(米国食品医薬品局)や日本の厚生労働省など監督機関が認証すれば、次の新しいデジタルヘルス市場を形成する可能性もある。

 例えば、睡眠の質を向上させるスリープテックでは、韓国のANSSilは、その日の体調に合わせて、固さや高さ、角度を自動で調整するスマートマットレスを開発している(写真2)。睡眠時間や体位のほかに、体温・心拍・呼吸数などのデータも収集し、ウェアラブルデバイスで取得する日中のデータと組み合わせ調整する。

写真2:韓国ANSSilのスマートマットレス。スリープテックは自宅療養機能と連携する可能性がある

 韓国Cowayは、温熱と音楽によるヒーリングと睡眠中のマッサージができるマルチ機能ベッドを開発中だ。現時点では医療機器としての機能は持たないが、将来的には遠隔医療サービスとの連携を視野に入れており、米Amazon.comのブースでは、寝室にデジタルヘルスを取り入れたアイデアを展示していた。

 在宅治療を対象にした「VR(Virtual Reality:仮想現実)セラピー」の研究も進んでいる。VR技術を使い、メンタルヘルスや認知症への対応やリハビリテーションを可能にするものだ。AppleのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)である「Apple Vision Pro」を用いた治療法も開発されている。

 欧米では2人に1人は受診経験がある心理カウンセリングを自宅でいつでも受けられるというサービスがあるなど、薬を使わない「デジタルセラピューティクス」としての治療効果も期待される。

 フランスのスタートアップSOCIALDREAMは、病気や障害、孤立などに伴う精神的ダメージを軽減する「DREAMSENS」を出展した。フルフェイスヘルメットのようなHMDを使い、独自コンテンツを通じてバーチャル世界に没入させる(写真3)。効果は検証中で「製品化には、もう少し時間がかかる」(同社)とするが今回、Innovation Awardsを受賞した。

写真3:仏SOCIALDREAMがVRセラピー用に開発中の「DREAMSENS」は、顔の周りをすっぽり覆う

エイジテックはスマートホームと融合する

 エイジテックのカテゴリーをCESは数年前から設け注目している。高齢化社会をデジタルで支えようとする動きは世界に広がっているからだ。2024年は、高齢者の社会福祉問題に取り組む世界最大規模のNPO(非営利団体)であるAARPが運営する、スタートアップアクセラレーションプログラム「AgeTech Collaborative(以下、ATC)」が専門エリアを設け、カンファレンスやスタートアップのデモを実施した。

 ATCは、ロボティクスからAI、IoT(モノのインターネット)まで幅広いテクノロジーを用いて、高齢者ニーズに沿った、より良い生活をサポートする製品/サービスを開発するためのエコシステムの構築を目指している。製品化に協力する企業や投資家が参加し、オープンイノベーションを後押しするほか、120以上のポートフォリオを集め、開発用テストベッドなども提供する。

 ショーケース「Samsung Health House」には、スタートアップ10社が参加し、在宅高齢者向けにスマートホームと連携するデジタルヘルスケア製品/サービスを展示した(写真4)。認知症をケアするデジタルサービスや、食品管理やレシピを提案するスマート冷蔵庫や調理器、座るだけで心拍数や血中酸素濃度を測るトイレなどである。

写真4:AARPのAgeTech Collaborativeでスマートホームと連携するエイジテック製品を紹介する「Samsung Health House」

 多くは、性能的には日本で既に発売されている同種の製品のほう先行しているように見えた。だが、実装化を加速するアクセラレーションプログラムの効果によっては、一気に追い抜かれるかもしれない。