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東京電力とJCBが取り組むDX、大規模アジャイル開発方法論で組織から変える

「Japan SAFeシンポジウム 2024」のパネルディスカッションから

阿部 欽一
2024年4月1日

日本企業は試行錯誤し失敗し、そこから学ぶことに慣れていない

一條 和生 氏(以下、一條) :スイスIMD教授/Innovation and Leadershipで一橋大学名誉教授の一條 和生です。変革に向けた課題について、お聞きします。金融や社会インフラ企業は一見、変革とは無縁のように見えますが、皆さんにとっては具体的に何が変革の障害でしたか?

写真4:スイスIMD教授/Innovation and Leadershipで一橋大学名誉教授の一條 和生 氏

:変革をどうとらえるかですが、最終的には「組織の変革」に尽きると思っています。欧米のように雇用の流動性が高くない日本では、どうしても「今いる人をどのように変えていくか」が大きな課題です。

 教育には知識教育と行動教育の2つがあります。日本人は比較的、先生から正解を学ぶ知識教育には抵抗がなく得意です。一方で、自分をどのように変革していくかを考え行動するための行動教育には慣れていません。試行錯誤し、失敗し、そこから学んでいくことが得意ではないのです。

 行動において大事なのが“目的”です。「何をやりたいか」というゴールがあり、小さな勇気をもって行動し、失敗したときにそれを許容する同士というかチームができれば、変革を上手く進めていけると思います。

一條 :巨大企業の東京電力では、なかなか失敗を許容することは容易ではないと思いますが。

:基本的に「人は失敗する」と思っていますので、大事なことは「学びは何か」ということです。私は必ず「タダで失敗するな」「途中で辞めるな」「やり続ければそれは失敗ではない」と言ってきました。失敗したときも、起きたことには特に何も言わず、「なぜ起きたのか」「原因はどこにあるか」という問題解決につながる対話を重ねるようにしています。

組織全体で課題や意識のベクトルを合わせることが課題に

中田 :JCBは日本発の国際カードブランドの運営会社です。世界中の金融機関と提携し、JCBブランドのカードを発行して会員や加盟店網を拡大しています。会員数は世界で約1億5000万人、加盟店は約4600万店、年間取扱高は約43兆円という規模のビジネスです。

 従来の競合カード会社との競争に加え最近は、コード決済やBNPL(後払い決済)など決済手段の多様化が進んでいます。新興の競合相手に勝ち残っていかなければ収益が上がっていかない状況にあるだけに、いかに顧客ニーズをとらえたプロダクト/サービスを迅速に市場に提供できるかが課題です。

 そこでプロダクト/サービスの企画からシステム化までをアジャイルで推進する取り組みを2020年度に開始しました。システム本部とビジネス部門から300名超のメンバーを集めスクラムチームを構成しています。

一條 :変革には組織の危機感の醸成が重要ですが、4年前の変革スタート時の社内の危機感はどうでしたか?

中田 :危機感は高かったです。アジャイルへの取り組みもブランド事業部門の役員が、「このままのスタイルでウォーターフォール型の開発をしていても、スピードで勝てない。一緒に取り組まないか」と持ちかけてくれたのがきっかけです。

 加盟店部門やカード部門など他の事業部門も、それぞれに競合があり、危機感は強く持っていました。ただ、組織の中にはオペレーション部門もあり、組織全体で課題や意識のベクトルを合わせることは課題の1つだったと思います。

一條 :新興勢力との競争という意味では、スタートアップはスピードが早いです。既存のプレーヤーは、そのスピードに対抗していく必要があります。そのためには、あるべき姿やビジョンを示すと同時に、現有人材のスキル向上が重要です。その点、新しいことを学ぶことに組織として抵抗はなかったですか?

:私は、会社員人生のほぼ半分は研究所で研究員をしていたので、現状に対し肯定的な疑念を持つことに抵抗はありませんでした。大事なことは、さまざまな情報から得られる示唆と、それに対して自身としてどう反応するかだと個人的には思っています。

 知って、反応し、行動して人と会う。会って話を聞いて、また異なる知識に触れ、それがさらなる変化・行動につながっていくのではないでしょうか。