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生成AIのプラットフォーム化と特化型AI【第69回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2023年6月19日

「ChatGPT」の登場はAI(人工知能)技術の可能性を広げ社会に大きなインパクトを与えている。GPTの進化やChatGPTの使い方・規制に関するニュースが毎日のように伝えられている。一方、スマートホームの中核的ポジションを目指してきた音声認識技術を使った特化型AIである「Amazon Alexa」は、マネタイズで課題を抱えている。ChatGPTとAlexaの現状から、AI技術の今後の発展を考えてみたい。

 『広がるAIによるDX推進と解決すべき3つの課題【第60回】』において、AI(人工知能)技術の活用がビジネスリターンにつながってきていると述べた。その際、対象としていたAI技術は、目的に対しデータを機械学習や分析することでビジネスに役立てる特化型AIだった。

音声応答ができる「Amazon Alexa」はマネタイズに苦心

 音声を使った応答ができる特化型AIの例が「Amazon Alexa」や「Apple Siri」である。音声応答AIは、利用者が発した音声を音声認識し、自然言語処理技術を使った解析により、それに対する回答を生成し、その回答を音声合成によって読み上げる。以下では、Alexaの仕組みとビジネスモデルをみてみたい。

 Alexaが発表されたのは2014年。肉体的なハンディキャップを持つ人でも、画面やキーボードを操作することなく情報を入出力できることを目指して開発された。自動車の運転中やキッチンでの料理中など、手が塞がっている状態でも、音声だけで情報を入手したり命令したりができる。音声対話や音楽の再生、ToDoリストの作成、ポッドキャスト/オーディオブックの再生、天気や交通、スポーツ、ニュースといった情報のリアルタイムな提供などが可能だ。

 その構造は、音声応答を基に、さまざまな処理を実行する「スキル」と呼ぶアプリケーションと連動させる仕組みでできている。スキルは、開発キットを使えば誰もが開発できる。新しい機能やスキルの追加によって、デザインやシステム、データベースが変更される可能性があり、その変更に時間を要する場合がある。

 Alexaの開発者としては既に90万人以上が登録されており、13万以上のスキルが開発されている。Alexaを活用できるデバイスは、スマートスピーカーだけでなく、自動車や家電など約1億に達する。米国での普及率は2022年に66%で、市場シェアはトップだ。利用時間は2022年に30%以上増加し、Alexaを所有する人の半数が少なくとも1日に1回利用しているという(英Financial Times調べ)。

 普及度や市場シェアでは成功しているようにみえるAlexaだが、システムの開発・維持、プロモーションのための費用がかさみ、ビジネスとして見た場合、必ずしも成功していない。例えば、Alexaを搭載するハードウェア「Amazon Echo」などの開発チームは、シェア獲得のために製品を原価に近い価格で提供しており大幅な損失を生み出しているとされる。

 Alexaのビジネスモデルは、Alexa自身で収益を得るのではなく、Echoの利用家庭からのデータの収集・活用、およびAmazon.comへの商品の直接注文による収入増や他のサービスで稼ぐものだ。しかしAlexaの実際の使われ方は、音楽再生や天気の確認といった単純なやり取りが中心で、他のビジネスにつながっていない。Alexaは宣伝チャネルでもないため広告費の収入もない。

 「Name Free Instruction」と呼ぶスキルの利用に、特有の命令が必要だったことを不要にしたり、スキルからのAmazon.comでの商品購入などを可能にしたりしているものの収益改善にはつながっていないのが現状だ。