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ヘルスケアの分析:その3=ヘルスケアの辞書【第32回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2020年3月30日

ヘルスケアの辞書を作る

 実はヘルスケアについて分析する場合、データの関係性に対しては第9回で紹介した「T字」「逆T字」の構造が使える。この場合、収集・分析対象になるのは、患者の症状、心身の変化、食生活、生活習慣・性格、病気に関するデータである。

 つまり、ある症状が進んだ時の違う症状、もしくは、ある症状が緩和された心身の変化を追う。それに関して、何の病気が関連していくのかを紐付ける。最初に軽い症状があり、それが進むとより重い症状につながる。その症状に対して考えられる病気が、図1のようにT字の辞書で表される。

図1:ヘルスケアの辞書(構造)で「症状」を中心に見た場合の例

 図1では、症状に効く可能性のあるサプリ・運動・食事、病気に効く薬・食材などが関連付けられている。表1〜6は、この考えに沿って実際に作成した例でもある。

 病気を中心に見ると、原因、生活習慣病、病気、合併症、最悪の場合は死亡という連鎖になる(図2)。T字の中心を原因、生活習慣病、合併症とすれば、それに関する症状も切り替わる。

図2:ヘルスケアの辞書(構造)で「病気」を中心に見た場合の例

抵抗力の低下をキーワードにした分析

 ここで『抵抗力の低下』をキーワードとして複数のデータを分析してみる。主な原因としては以下が出てくる。

(1)高カロリーに代表される食生活 :糖質・塩分・脂質の摂り過ぎが免疫システムを弱める
(2)現状、肥満であるという事実 :肥満であることが、白血球の増殖や抗体を作る機能や炎症を抑える機能を低下させる
(3)睡眠不足 :睡眠不足で免疫システムの機能が低下する
(4)飲酒 :アルコールによって分解された中間代謝物質であるアセトアルデヒドにより、細菌・ウイルスが侵入しやすくなる
(5)ストレス :ストレスによりコルチゾールというホルモンの分泌が促進され、病原菌と戦うT細胞の機能が弱体化してしまう

 ほかにも運動不足、喫煙などの生活習慣や、怒りやすい、落ち込みやすいなどの性格も抵抗力が低下する原因になり得る。

 高カロリーな食生活における糖質の例には、ごはん、パン、菓子などがある。年を取るにつれ糖質の取り方を変える必要も出てくる。夜に摂っていた、ごはんを辞めて朝食として食べるようにすると体重が落ちた事例は数多くある。ただし何の根拠もない素人考えでは必ず間違ってしまう。ある事例を紹介する。

 ある人は、朝に食欲がないことがあった。だが何も食べないのは良くないので菓子パンを食べていた。これは間違ったやり方だ。これを魚料理中心のきちんとした朝食に変えてからは、朝に食欲がないケースは全くなくなったという。

 ダイエットをする場合に、麺類だけという人も多い。だがこれは、かえって体にはよくない。たんぱく質や野菜も十分に摂らないと健康的に痩せない。

 健康診断でLDLコレステロールが高めで、医者から卵を控えるように言われることもあるだろう(表5参照)。敢えて卵そのものを摂取しなくても、天ぷらやハンバーグなど色々な食事に卵は食材で使われおり最低限の栄養は摂れている。ただし、フレイルの状態になると前提条件が違ってくる。必要なたんぱく質は卵などで適宜、摂ることになるであろう。

 運動不足、肥満であるという事実、高カロリーとアルコールが原因になり、血管が痛んで生活習慣病になっていく。生活習慣病には「糖尿病」「脂質異常症」「高血圧」などがある。糖尿病の症状としては水分摂取量と尿の量が増える。

 高血圧では頭が重く、めまいや耳鳴りなどがおこる。これが進むと血管の不具合、つまり「動脈硬化」になる。各部位の血管に障害が出て、「認知症」「下肢切断」「失明」の可能性も出てくる。さらに血管の病気として「脳卒中」「心臓病」「腎臓病」などになる。脳卒中になると失神を起こす。心臓病は胸に激痛がある。

 いずれも血管の不具合が大きな一因で、体の各部位の血管に障害がでることに問題がある。そして合併症として「脳梗塞」「くも膜下出血(脳の血管が破裂)」「狭心症(心臓の冠動脈が狭くなり、血流が悪くなる)」「心筋梗塞(心臓の冠動脈に血栓ができ血流が止まる)」などにつながっていく。狭心症や心筋梗塞などでは突然死のリスクが高くなる。