• Column
  • Digital Vortex、ディスラプトされるかディスラプトするか

ディスラプターと戦うための対応戦略(後編)「攻撃的アプローチ」【第5回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2018年3月12日

どのカスタマーバリューを優先すべきか

 最後に、前回から2回に渡って述べた対応戦略を順に振り返り、どのカスタマーバリューを優先すべきか整理する(図4)。

図4:対応戦略毎のカスタマーバリュー優先度

(1)収穫戦略

 企業は、既存のカスタマーが離れていかないように、提供する製品/サービスの質を高める必要がある(エクスペリエンスバリュー)。同時に、自社の製品やサービスが持つ競争力をできる限り維持・向上させながら、コストを減らしていかねばならない(コストバリュー)

(2)撤退戦略

 撤退には、継続的なコスト削減が必要となる(コストバリュー)。まだ残っている既存のカスタマーが持つ特殊なニーズを大切にし、ニッチな市場において、他社では真似できない製品/サービスを維持するエクスペリエンス重視の改善が必要になる(エクスペリエンスバリュー)

(3)破壊戦略

 他のカスタマーバリューの助けを借りつつ、いずれか一つのカスタマーバリューを武器にすることが多い。ただし、既存企業が採る破壊戦略では、コストバリューの果たす役割が、最初からある程度決まる。つまり、脅威への対応として破壊戦略を採る場合、新興のライバル企業と真っ向から対決するためにコストバリューに重点が置かれる。一方で市場に新たなディスラプションを起こすために破壊戦略を採る場合は、あえて自らをディスラプトしようとは思わないため、コストバリューがメインになることはない。

(4)拠点戦略

 バリューベイカンシー獲得に向けた総力戦になることから、組み合わせ型ディスラプションを起こす3つのカスマーバリューのすべてが必要になる。なかでも、プラットフォームバリューは、高い参入障壁を築き、長期的な拠点を作る際の助けになることから、重要な差別化要素になる。

 なお、デジタルボルテックスを解説した『対デジタル・ディスラプター戦略』(日経経済新聞出版社)が2017年10月24日に出版されている。こちらも、ぜひ、ご覧いただければ幸いである。

今井 俊宏(いまい・としひろ)

シスコシステムズ合同会社イノベーションセンター センター長。シスコにおいて、2012年10月に「IoTインキュベーションラボ」を立ち上げ、2014年11月には「IoEイノベーションセンター」を設立。現在は、シスコが世界各国で展開するイノベーションセンターの東京サイトのセンター長として、顧客とのイノベーション創出やエコパートナーとのソリューション開発に従事する。フォグコンピューティングを推進する「OpenFog Consortium」では、日本地区委員会のメンバーとしてTech Co-seatを担当。著書に『Internet of Everythingの衝撃』(インプレスR&D)などがある。