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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松のデジタル化は第2ステージへ【第19回】

「地元産業×ICT」による地元活性化と「他の地域への展開」

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長)
2019年5月23日

スマートシティサービスを他地域へ拡大する

 第2ステージの目標2である、会津地域で実装されたスマートシティサービスの他地域への拡大も、これから本格化する。奈良県橿原市が「会津若松+(プラス)」を基にした市民ポータルサービス「かしはら+」を導入するなど、すでに拡大が始まっている。開所式後、多くの地方自治体から問い合わせや視察申し込みがあるなど関心が高まっている。

 「横展開」という言葉は誤解を招きやすいので説明しておきたい。これまで、横展開とは「ある環境で成功した方法論やサービスなどを他の環境へ当てはめ2次利用することで、短期で成果を獲得する」という意味で使われてきた。そして、ハードウェアやミドルウェアは、同様のシステム構成でオンプレミスモデル(自社内に構築・運用)で個別に提供される。いわゆるパッケージ展開である。そして展開時に、展開先の要求を受け入れる“カスタマイズ”が頻繁に繰り返されてきた。

 このモデルが日本の現状であり、1700以上ある自治体に複数社のパッケージが“横展開”され、法律が変わるたびに数百億円単位のメンテナンスコストを必要としてきたのである。開発期間やメンテナンス作業期間も膨大な時間を要するため、スピードが求められる政策変更や新たな政策実現においてシステムが足かせになって対応できなかった。

 こうした状況を打開するために進めるサービス地域の拡大における“横展開”は、クラウド上に整備されたスマートシティプラットフォームに各地域がつながり、その地域のデータによるサービスを提供するモデルである。メンテナンスは瞬時に実現できるし、そのためのコストは大幅に削減される。

 このモデルであればIT業界全体がサービスモデルにシフトするようになり、日本の多くのシステムインテグレーターがサービスオリエンテッド企業へ生まれ変わることも期待できるのだ。

 時代はすでに「クラウド・バイ・デフォルト(最初からクラウドを前提に設計すること)」に入っている。構築されたプラットフォームやUI(ユーザーインタフェース)は、そのまま利用する。UX(ユーザーエクスペリエンス)は、全体最適化を前提に設計されているので地域ごとに改変しない。

 GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)のサービスや製品を見ても、たとえばAmazonは、言語やサービス提供地域に関係なくサービスモデルが共通であるし、GoogleやFacebookの画面構成やUI/UXは世界共通だ。Appleの製品は初めから各国語対応を済ませた状態で出荷され、商品やサービスは全世界共通である。

 このように、国や地域・文化・言語を超えてサービス提供している企業は、不用意な部分最適化や不要なカスタマイズを厳に謹んでいることがわかる。クラウド・バイ・デフォルトの時代には、「設計思想はサービスの隅々まで普遍である」ことが不可欠なのだ。

 人口減社会という課題を抱える日本においては、自治体が独自にカスタマイズしたサービスを提供するのではなく、どの自治体で生活していても「同じUI/UXで行政サービスを受けられる」ことが重要だ。行政サービスに限らず、たとえば複数の医療機関担当医師も同様の課題を抱えているだけに、医療システムにも同じ考え方が当てはまるだろう。常にユーザーの視点で考える。

「拡大」を決断した経営陣に感謝

 アクセンチュアは、AiCTの1階にイノベーションセンター福島(略称AIF)を構え250人が勤務することになる。開所式当時は、オフィスツアー(見学会)を一般公開し、何ができるのかを楽しみにされていた市民の方々や、多くの社員のご家族にも我々の働き方に合わせた、現代のオフィス環境や、そこで働く姿を見ていただけた(写真3)。これまでなじみの薄かった、IT企業の働く様子を目にしたことで、より親しみを持っていただけたのではないだろうか。

写真3:アクセンチュア・イノベーションセンター福島(AIF)が入居するAiCTのオフィス棟(左)と、AIFのオフィススペース。奥の壁面には会津慶山焼タイルで作られた磐梯山がみえる

 2011年、アクセンチュアが「日本でのビジネス開始50周年」を記念する社会貢献事業を模索していた中で東日本大震災は起きた。復興支援に対しアクセンチュアは「10年継続」を約束し、会津に拠点を設立した。

 開始から5年目に社長交代があり「拡大路線か、現状維持で約束の10年を果たしたら撤退するか」という選択肢もあった。その中で、新社長以下経営陣は「拡大」を決断した。手前ミソではあるが、会社のその英断に感謝していることを書き添えておきたい。多くの大企業が同様の経営判断を下せば、地方創生は必ずや成就できるものと確信している。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア福島イノベーションセンター センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、国産ERPパッケージベンダー、EC業務パッケージベンダーの経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興に向けて設立した福島イノベーションセンターのセンター長に就任した。

現在は、東日本の復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中のデザインから分散配置論を展開し、社会インフラのグリッド化、グローバルネットワークとデータセンターの分散配置の推進、再生可能エネルギーへのシフト、地域主導型スマートシティ事業開発等、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。