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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松のデジタル化は第2ステージへ【第19回】

「地元産業×ICT」による地元活性化と「他の地域への展開」

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長)
2019年5月23日

第1ステージの「0to1」は完了、第2ステージは「1 to 10」を目指す

 振り返れば、2011年3月11日の東日本大震災以後、複数の大手企業が東北地方に拠点を構えて活動を開始した。だが、いずれもが拠点を縮小か撤退させていった。そんなニュースを地元市民が耳にするたびに「またか」という失望が少なからずあっただろう。筆者自身も同じ志を持った各企業の拠点責任者が東京に帰っていくのは寂しい限りだった。

 「東京からの進出に感謝はすれども、また撤退されてしまうのではないか」という“不安”が絶えずつきまとうのは人間心理として自然だ。それだけにアクセンチュアは、多数の叱咤激励をいただくことで、会津若松市を地方創生の先端事例にしセンターの拡充を実現するべく奔走してきた。

 「会津復興・創生8策」における「0 to 1(何もないところに新しい芽を生み出すこと)」はAiCTの開所によって達成した。これからは「1 to 10」(芽を育て大きくしていくこと)をテーマにした第2ステージが始まる。未来は関係者が一丸になって初めて築くことができる。行政と民間のコラボレーションを起こしていくことが重要だ。

 第2ステージにおける目標は、次の2つに集約できる。

目標1:会津若松スマートシティプロジェクトのサービスの深化と市民へのさらなる浸透、そして各産業のデジタル変革による生産性向上を実現する

目標2:会津若松市で実装し検証できたスマートシティサービスの他地域への拡大

自立する市民からの信頼を得て共に動く

 目標1の実現に向けた要諦は3つある。(1)地域の産学官民全体の自立志向、(2)新たなエコシステムの形成、(3)業種横断データ活用モデルの実現だ。

地域の産学官民全体の自立志向

 竹田 秀 理事長を代表とするスマートシティ推進協議会(第18回参照)の会員や、AiCTを管理運営するAiYUMUの八ツ橋 善朗 社長(第15回参照)は「自分たちの“まち”を自分たちで育てる」という強い信念を持っている。彼らのように自立志向の高い意識を市民1人ひとりへと共有していくことが第1の要諦だ。

 日本の国民性は、公助(行政による支援)に頼りがちで、共助(仲間同士の支援)・自助(自分のことは自分でする)の意識が薄いといわれる。だが、その意識を、まず自助、そして共助、公助へと逆転させられれば、まちづくりへの市民の意識も「自身が発するデータを地域社会のために役立ててもらおう!」となるはずである。

新たなエコシステムの形成

 AiCTに入居する各企業や地元のICT関連スタートアップ企業が、地元の各産業群といかに化学反応を起こしていくか。目標やビジョンを共有できる企業同士が、必要であれば既存サービスや製品をアンバンドル(ばらばらに)し、最適なモデルとしてリバンドル(組み直し)することで、新たなエコシステムを構築することが重要である。

 たとえば、医療分野のオペレーションは生産性向上の余地が大きい。現在、普及しているPCによる電子カルテシステムを、AIによる自動音声入力へと置き換えられれば、医師は患者に向き合う医療行為に専念し、医療業務処理の負担を軽減できる。

 患者にしても、診察後は、その場でスマートフォンで決済し、会計にも薬局にも立ち寄ることなく帰宅できるだろう。処方箋データは薬のデリバリセンターに送信され、薬は宅配便で患者宅に届けられる。ドローンによる宅配の社会実装も実現するだろう。患者の病院内での滞在時間を減らすことは、院内感染などのリスクを軽減し、医療行為の生産性を向上させることにつながる。

 また、AiCTに入居した企業に会津大学の卒業生や地元出身者が増えることで、入居企業の「地元への根付き」も並行して進む。企業が地域へ浸透することは、地方創生の推進や中長期的な展望を描くうえで重要である。

業種横断データ活用モデルの実現

 これまでのキーフレーズは「○○×ICT」である。すでに「観光×ICT」の取り組みがスタートしている(第6回参照)。「農業×ICT」「工業×ICT」などの産業分野で生産性を高める活動が展開され始めている。これらが、さらに横断的に連携することで、期待できる成果はこれまで地域が経験したことのないものになる。

 たとえば、スマートシティプラットフォーム(都市OS)の共通機能に決済機能を追加すると、各領域で発生した決済履歴データの収集が可能になる。ヘルステック領域の決済履歴データと農業や食のデータを分析することで、ヘルスケアの地域で必要とされる食物を導き出せるし、食からくる疾病の特徴も現状よりも詳細かつ正確に、家族レベル・個人レベルで把握できるようになるだろう。

 教育分野では、学校給食の献立づくりに分析結果を活かせば、地域として健康長寿に貢献することになるだろう。これらの業種横断連携は、地域に新たな研究開発やサービスが生まれる基礎になり、地域経済の活性化に大きく寄与すると期待できる。