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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

地元企業 × グローバル企業 × スタートアップが起こす化学変化【第20回】

会津若松の新たなエコシステム・プレーヤーの思い

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長)
2019年7月25日

会津の地方創生はスマホを持つ市民の手のひらの上で進む

中村  現在のデジタルサービスでは、モバイル端末がフロントエンドの周流です。行政サービスも、スマートフォン用アプリケーションを介した提供が本格化する時代になります。

岡﨑  その通りです。モバイル端末はデジタル市民サービスのタッチポイントになりました。会津の地方創生は、市民の手のひらの上でも進んでいると考えています。ですので私は、ショップ経営と並行して、サービスそのものを開発する事業部を設立したのです。地域からも強いニーズを感じています。

写真3:エヌ・エス・シー 代表取締役 岡﨑 敏之 氏。オフの日の過ごし方は「アウトドア派」。夏は猪苗代湖でのウェイクボード、冬はスノボ。特に水上スポーツはベテランの腕前。

中村  国会を通過したデジタルファースト法案でも、デジタルデバイドの解消を重視しています。岡﨑さんが手掛けるビジネスは社会において今後、ますます重要になり、より一層フォーカスされると思います。

藤井  私も今後は、社会課題とのリンクや起業家精神の重要性がますます高まると予想しています。

 その意味で、事業計画の書き方講座なども重要ではありますが、事業計画や登記は単なる手続きにすぎません。社会に、どんな価値を提供したいのか、どんなプロダクトやサービスを作るのか。そして、それは利用者に喜んでもらえるのか。そういった自らのアントレプレナーシップを強く持つことのほうが、はるかに大切です

ラストワンマイルの交通手段の欠如は日本の大きな社会課題

中村  モビリティ分野のスタートアップであるLUUPは、社会課題の解決を事業の中心に据えています。

矢口  社会課題を解決するアイデアとして当社が提案しているのが、電動キックボードなど電動マイクロモビリティのシェアリングサービスです。たとえば高齢者の運転免許返納が推奨され始めていますが、その後の移動手段の欠如は喫緊の課題です。「ラストワンマイルの交通手段の欠如」は日本の大きな社会課題の1つです。

写真4:LUUP 事業推進統括の矢口 誠也 氏。山形県出身のため、幼少期から会津地域には頻繁に訪れる。素晴らしい食材や水、文化をもつ会津の魅力は、やはり「食」。

 当社は最近、静岡県浜松市、奈良市、三重県四日市市、東京都多摩市、埼玉県横瀬町の5市町と連携協定を締結しました(締結順)。2019年7月3日には経済産業省が主催する「高齢者向けモビリティ試乗会」において、世耕 弘成 経済産業大臣、関 芳弘 経済産業副大臣をはじめ、約150人がLUUPの電動マイクロモビリティを試乗しました。

 会津若松市は道幅が広い場所が多く、LUUPのような乗り物の実証事業には適した環境だと感じています。

岡﨑  高齢者にはLUUPのような“立ち乗り”の二輪車は難しくありませんか?

矢口  鋭いご指摘です。先の高齢者向けモビリティの試乗会では、高齢者向けには安定感が高い椅子付き三輪タイプの「低速電動ウィールチェア」を発表しました。世耕大臣が試乗したのもこのモデルです。

岡崎  利用者のニーズに合わせて複数のタイプを開発しているのですね。

中村  それらの機種の製造を会津地域が受け持てれば、なおよいのではないでしょうか。会津には自動車部品などを扱う優れた部材メーカーが多数存在しています。コネクテッド・ファクトリーを実現すれば、まさに会津版「Industry 4.0」にもなります。実証フィールドで設計・製造まで担えれば効果的なコラボレーションが誕生します。

 会津にはスマートシティの一環として、実証フィールドもあれば、オープンデータのプラットフォームもあります。東京では難しい実証実験も、ここなら実現する可能性があります。社会実装するようなテーマで起業したスタートアップに会津に来てもらい、まずはコワーキングスペースで取り組むなどしながら地元企業とのコラボレーションに進められればと考えています。