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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

地元企業 × グローバル企業 × スタートアップが起こす化学変化【第20回】

会津若松の新たなエコシステム・プレーヤーの思い

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長)
2019年7月25日

若手起業家へのさらなる投資が必要

藤井  創業間もないスタートアップ企業であれば、コワーキングスペースなどを利用して低リスクで始動したり、AiCTにおいて他産業の会社とコラボレーションしたりは可能でしょう。しかし根本的な問題として、若手起業家へのさらなる投資が社会全体で必要だと思います。

 現在の課題はリスクマネーが地域に流れないことです。銀行融資を得るのは難しく、自己資金だけでは小さなプロジェクトしかできない。そのため自社事業だけではスケールしにくく、受託開発など当面の利益を確保しやすい事業にリソースを割いてしまいがちです。

中村  私たちも、そこを問題視しています。「会津に行くと3年でIPO(株式公開)できる」といった場にしたい。そのための支援体制を整備している最中です。もちろん、そのテクノロジーやサービスが真に画期的かどうか、社会に新たな価値をもたらすかどうかについては、目利きの判断が必要です。

藤井  目利きの判断と同時に、若者がチャレンジして失敗できるような環境をフォローできる人や組織が必要だと感じています。

岡﨑  私も会津大の卒業生と何人もお付き合いがあります。皆さん素晴らしい技術者です。しかし、技術者がビジネスや経営までの、すべてをこなすことは難しい。そのため、会社としては今ひとつ伸び悩み、もったいない状態のケースもあるのではないでしょうか。

 ポテンシャルが高いことは間違いありません。ギャップを埋め、ポテンシャルを発揮できれば一気に駆け上れると考えています。

AiCTはすでにコラボレーションを誘発している

中村  AiCTがオープンして数カ月ですが、目に見える形の成果が生まれてきていますか?

岡﨑  企業同士のコラボレーションの話題が湧き出ています。これは誇張ではありません。毎日、建物のあちこちでビジネスマッチングの話が出ています。

 立ち話しをしたり、お茶を飲んだりしながら「当社はこう考えている」「うちはこういうことをやろうと思っている」「当社の専門はこれだ」と、入居者の間に不思議な連帯感が生まれていて、イノベーションを生むための土壌になっていると感じます。AiCTが単なるオフィスビルではないことを非常に強く実感しますね。

中村  スマートシティのモデル図が、実際のビルの形になったのがAiCTです(図1)。データ基盤を扱うアクセンチュアが1階におり、地元企業や進出してきた大手企業が2階に入り、3Fにスタートアップが入っています。方向感やビジョンを共有している企業が入居しているため、コラボレーションが自然発生しているだと思います。

図1:会津若松市のスマートシティプロジェクトのモデル図(アクセンチュア作成)

藤井  案件以外でも、みなが地図アプリを使って「ランチマップ」をシェアしたり、建物の受付システムが不便だといって手軽なシステムを開発したりしています。ビルの環境を自分たちで改善していく点もスマートシティのコンセプトに合致しています。

岡﨑  AiCTに入居し、スタートアップや他企業とのコラボレーションによって価値のある案件が複数誕生すれば、それだけで家賃支出をペイできるかもしれません。まさに「実質ゼロ円」です(笑)。AiCTは、会津地域のコラボレーション拠点としての存在感をますます発揮することでしょう。

矢口  LUUPは新しい乗り物だけに、市民や企業との信頼関係が重要であり、道路行政との連携が不可欠です。会津地域の市民は、デジタル経験も豊富なため実証フィールドとして最適だと考えます。

 つい先ほども、個人経営のおそば屋さんで、キャッシュレス決済の仕組みが導入されているのを見かけました。市民の感度の高さや、市民生活をより良くしていこうという行政や企業、そして市民の思いを感じます。

 そうした環境であれば、技術を持つスタートアップが、どんどん実験的な試みにチャレンジできるでしょう。東京では、すぐに実現することが難しいことが、会津なら可能になると期待しています。

中村  地元企業や大企業、スタートアップ企業のコラボレーションのための環境は整ってきました。目利きとして藤井さんや、AiCT入居企業の大手企業メンバーのほか、地域産業の経営者もスタートアップ企業とのコラボレーションに期待しています。

 全員がフラットな関係にいられるのも会津若松の特徴です。スタートアップ企業の経営者には、どんどん会津に集まり、面白いこと、新しいことにトライしてほしいですね。

写真5:AiCTを背景に立つ座談会の参加者。前にあるのが「LUUP」の電動キックボード

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、国産ERPパッケージベンダー、EC業務パッケージベンダーの経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興に向けて設立した福島イノベーションセンターのセンター長に就任した。

現在は、東日本の復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中のデザインから分散配置論を展開し、社会インフラのグリッド化、グローバルネットワークとデータセンターの分散配置の推進、再生可能エネルギーへのシフト、地域主導型スマートシティ事業開発等、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。