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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

都市OSを駆動させるスマートシティの要となる「地域データ」(前編)【第21回】

元総務大臣補佐官 太田 直樹さんに聞く

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長)
2019年8月22日

デジタルによる地方創生には「地域データ」が不可欠

太田  地域データはビッグデータの一種です。データは今後、社会を駆動する存在になります。企業や行政が個々に蓄積してきたビッグデータに「地域」という枠組みを当てはめてみる、つまり横串で活用できるようにすれば、さまざまなことが見えてきます。地域を限定することで「データ活用のコンセンサス」を醸成しやすくもなります。

中村  地域データに対しては昨今、企業や行政でも関心度が高まってきています。会津での取り組みにおいても重要なポイントです。

太田  地域データの活用において、会津若松市の注目度が高まっていることは私も実感しています。先日も日本を代表するテクノロジー企業のトップが会津若松を訪れました。視察を受けて、経営会議でこんな議論があったそうです。

 「会津地域は、データやAI(人工知能)が未来の世代の果実になるというコンセンサスを形成した点が素晴らしい。中国は国レベルでコンセンサスがあり、トップダウンで進んでいるが、日本に注目すべきモデルがある」

 その企業トップは会津で、次のようなことを感じたのだと思います。地域では課題が顕在化しており、それに対して個人が自分ごととして行動を起こす環境があるため、テクノロジーが主体的・積極的に活用される。対して、社員の大部分が暮らす都市は逆の環境になっている。

 地域データが支援できるのは、「共助の精神で地域を発展させる取り組み」です。会津若松市は市民生活の全般にわたってデータ活用が進んでいる。私も日本最先端の都市だと思います。

中村  会津若松市が取り組んできたスマートシティプロジェクトの本質を理解いただけ大変光栄です。太田さんが関わっておられる他都市での「地域データ」の活用状況はいかがですか?

太田  たとえば山陰地方のある自治体では、農作物への鳥獣被害が深刻なため、行政と地域の農家が連携してデータを蓄積し、対策に向けたデータ活用に取り組んでいます。これは公民連携のデータ活用です。

 関西のある自治体では、通学する子どもの「見守り」に市民がデータを活用しています。子供にビーコンを持たせ、市民と企業、行政が連携し子どもの通学を見守るシステムを運用しています。

中村  非常に具体的かつ、成果を可視化しやすい取り組みですね。

地域データの構築では「標準化」と「拡張性」が重要

中村  ところで、地域データの活用における課題は何でしょうか。

太田  課題を考えるうえでは「誰の視点からの課題なのか」を考える必要があります。たとえば行政と企業を分けて考えてみましょう。

 行政の視点では、ある自治体で良い取り組みをしていても「他の自治体へ横展開しにくい」ことが問題です。データの本質は「移動の自由性」です。しかしデータを多様な環境で活用するには「標準化」が不可欠です。標準化されていないデータは横展開が事実上不可能です。

 標準化のプロセスには「デジュール(de jure)」と「デファクト(de facto)」の2種類があります。デジュールは、権限を持つ人が集まってルールを作るプロセスです。公的機関が定める標準などがこれに当たります。ヨーロッパでは委員会形式で権限を持つ者が集まって合意形成するデジュールの手法が多く採られます。

 一方のデファクトは、市場競争の結果や特定企業の支配的状況によって、市場における事実上の標準が定まっていくプロセスです。GAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple)などが北米の都市で進めている取り組みの多くはデファクトの手法です。日本はどうするのか。各地で進んでいるスマートシティのデータがバラバラにならないよう、いま手を打つ必要があります。

 では企業の視点ではどうでしょう。大企業は特定の地域だけでビジネスを手がけているわけではありません。地域データを利用する場合は、日本全体やグローバルのデータと「どう関連づけていくか」が見えにくいという課題があります。特定地域だけで効果的に機能する製品ではなく、日本全国や世界中で同様に成果を上げられる製品/サービスを生み出せなければならないからです。そこでのデータは拡張性が重要です。