- Column
- 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか
都市OSを駆動させるスマートシティの要となる「地域データ」(前編)【第21回】
元総務大臣補佐官 太田 直樹さんに聞く
日本人は「デジタルで社会は良くなる」と信じていない
太田 実は日本には非常に根深い問題があると私は感じています。日本人、がデジタルによって世界が良くなると感じていないことです。
太田 2018年、世界経済フォーラム(ダボス会議)で、「デジタルによって世界はよくなると思いますか?」という調査記事が話題になりましたが、日本の回答者で「はい」と答えた割合は、わずか2割で世界平均の半分です。国民を含めたコンセンサスが醸成できていないことが浮き彫りとなりました。
同じ質問を会津若松市民に限定して行なったら、全く違った結果になったかもしれません。先ほど話した国内大手メーカーの社長は会津を視察して「会津若松市には、個人の意思で社会を変革できると信じている人が大勢いる。そのことにインパクトがあった」と語ったと聞きます。
この問題は企業にも共通です。デジタルトランスフォーメーション(DX)を掲げる企業は多い。しかし本当に自社や社会がよくなると確信しているビジネスパーソンは、あまりにも少ない。これが現状なのです。
多くの企業や行政では、業務命令を受けたから取り組むという姿勢の方々を多く見受けます。組織に所属する人ですから多少は致し方ないとはいえ、個人として「自分はこうしたいから、こうする」というビジョンが薄いのです。
中村 明確な意志が必要ですね。
太田 そうです。意志を持つことが重要です。これは現代日本社会に共通するテーマです。落合 陽一さんなども語っていますが、日本ほどの規模の国でも「数百人の意志のある人」によって動きます。数百人は、今の時点で権力を持っている人とは限りません。「意志のある市民」でよいのです。そうした人々が今はまだ“つながっていない”のだと考えています。
中村 会津若松市のデータ活用については、どのような印象を持たれていますか?
太田 会津は、ビッグデータを活用する経済・社会モデルを市民参加型で実現できる可能性が最も高い地域だと感じています。そのポイントは「市民生活を360度取り巻くデータの活用」にあります。
他の自治体での例では、教育、エネルギー、交通、医療などのうち、特定分野でのデータ活用が多いのです。会津若松市は最も体系的・総合的に取り組んでいると思います。
ビジョンとパッションのかみ合わせが不可欠
太田 市民は画一的ではありません。会社員や公務員、子育て中の人、定年した高齢者、学生や子どもたちなど多種多様で、興味関心は一人ひとり違います。市民を考えるうえでは“入口”がたくさん必要なのです。
スモールスタートのアプローチも有効です。しかし。そこにも会津若松市のような“全体像”が不可欠です。エネルギーなどは半年ほどウォッチし続ければ傾向を把握できますし、省エネなど具体的な対策を立てられます。ところが、その後は関心が薄まってしまう。それに続く取り組みが必要なのです。データによって市民生活はどう良くなるのかというビジョンの提示が不可欠でしょう。
中村 とはいえ、ビジョンやモデルがあり、ツールやテクノロジーがそろっていても、すぐに実装や運用に進められるものではないということも実感しています。
太田 そうですね。それらを最終的に実現させるのは、やはり「人のマインドセット」です。会津若松市が全国の自治体の中でデータ活用を大きくリードしているのは、「全体像(構造)」と「パッション(人材)」が、しっかりと噛み合っているからだと私は見ています。
実は各地域には、構造に魂を入れる人、意志を持って「0 to 1」を実現できるパッションのある人材など“パワーのある個人”が存在します。面白い時代だと思いませんか。
中村 そう思います。後編では「パッションのある人材をどう地域データの活用プロジェクトに巻き込むか」や「スマートシティの実現と市民のマインドセットのあり方」などについて掘り下げてみたいと思います。
中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)
アクセンチュア アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。
現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。