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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

「モデル化」と「協働」で進んできた会津若松市のデジタル化(後編)【第27回】

会津若松市長 室井 照平 氏に聞く8年間の成果

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長)
2020年4月23日

前編では、日本のスマートシティの取り組みにあって前例のないチャレンジを続けてきた会津若松市 市長の室井 照平 氏に、基本的な考え方やリーダーシップのあり方を聞いた。後編では、より広い視野で「地域」「広域」の協働を実現する方法と、“真の産業振興”による地方創生のヒントを探る。(文中敬称略)

中村 彰二朗(以下、中村)  アクセンチュア・イノベーションセンター福島(AIF)センター長の中村 彰二朗です。室井市長は「協働」をキーワードに掲げてこられました。20世紀後半、日本は国や大手企業が主導し中央集権モデルによって発展してきました。しかし21世紀の発展モデルは、市民による地域主導の「協働・共創」です。室井市長が「協働、オール会津、みんなで、広域で」と言い続けられていますが、そこにスマートシティプロジェクトを推進するための基本思想があると思います。

 私たちアクセンチュアも「オープン、フラット、コネクテッド 、シェア、コラボレーション、コクリエーション(共創)」を価値観にしています。この点で、まさに一致していますね。

室井 照平 市長(以下、室井)  先日も会津大学と看護学校学生、介護現場で働く若手の方々による「介護デジタルハッカソン in 会津」を一般社団法人のスマートシティ会津主催で開催しました。テーマは「居宅・居住型施設における被介護者・介護家族・介護スタッフの問題を、デジタル・デザインの力で解決せよ」です。

写真1:福島県会津若松市 市長 室井 照平 氏

 会津大学の学生さんのようなデジタル人材と、看護学生、介護現場スタッフという介護人材の混成チームの皆さんが、それぞれの立場を活かして現場の課題を掘り下げ、その解決につながるアイデアを出し、具体的な試作品を作成しプレゼンをしました。アクセンチュアからもAI(人工知能)の専門家が審査員として参加していただいたほか、若手の社員の方も学生のよきアドバイザーとして携わっていただきました。

 最優秀賞を受賞したチームのアイデアは、介護現場における人材不足と需要増加のミスマッチを解消するために、介護保険適用外サービスの利用者と、その提供者をつなぎ、業務効率を高めるというアプリケーションでした。

 参加した各チームが、それぞれの視点で介護現場の課題を集め、解決策としてユニークなアイデアを発表し、まさに投資に値する内容だったと聞いています。ITは人を幸せにする道具です。色々な場面に応用できると思います。

中村  アクセンチュアも「Human+」の考え方を掲げ、人を中心にしたデジタル活用を推進しています。

 協働の精神があれば、市民の立場で、ものごとを考えるようになります。市民の生活は市内だけに閉じてはいませんから、スマートシティのサービス対象地域としては、近隣市町村を含めた市民の生活圏で考え、デザインすることが重要です。生活圏をデジタライゼーションすることがスマートシティだといえます。

写真2:アクセンチュア・イノベーションセンター福島(AIF)センター長 中村 彰二朗

室井  テクノロジーの進歩によって、効率のよい行政を広域で展開できるようになりました。大切なことは「理想と現実のギャップの直視」でしょう。何がギャップであり、その溝の深さはどの程度か。原因は何か。そこを理解しないままでは、期待された成果が得られません。

 提案をいただいた際には提案内容の理解に努めます。そのためには理解することを支援してくださる方々との向き合い方が重要でしょう。

 たとえば観光の分野では「デジタルDMO(Destination Management Organization)」の実績が出ています(第6回参照)。会津地域の近隣7市町村と連携してインバウンド向けに観光コンテンツを提供していますが、ITを活用し他の自治体との連携をさらに深めていきたいと考えています。