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- 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか
決済アプリ「会津財布」のデータと市民IDをオープンAPIで連携【第31回】
TIS 執行役員ジェネラルマネージャー 音喜多 功 氏に聞く
中村 スマートシティにおけるキャッシュレス決済は、地域経済の活性化に貢献できるポテンシャルを持っています。デジタルの決済手法には、すでに多種多様なサービス/事業者が存在しますが、地域の中小事業者にとっては手数料が大きな負担になっています。地域標準のウォレットアプリが中心に存在すれば、いずれ時間とともに淘汰されるでしょう。
同時に、市民が提供したデータをまちづくりに生かしていくためには、現状では決済事業者に点在しているデータを地域で活用できるように、しっかりと集約していかなくてはなりません。そのためにも、アプリは都市OSの基盤と連携できる仕組みでなければなりません。スーパーシティ構想の実現を見据えた点を踏まえても、会津財布のシンプルなUXは、各関係者にも受け入れやすいものでした。良いスタートを切れたと思います。
音喜多 こうしたアプリの開発自体は決して難易度が高いわけではありません。大切なのは、市民のみなさんに、きちんと理解していただき承諾を得る、オプトインのプロセスと、そのための仕組みです。ここは丁寧に作りました。
会津地域には、市民のIDと紐づいたポータルアプリ「会津若松+(プラス)」がすでに提供され、スマートシティの取り組みにとって大きな存在になっています。会津財布が単なるウォレットアプリにならず、IDを使った地域サービスの展開や、サービスのバリューアップ施策を組み込んでいけるのが大きな価値です。
その決済アプリがオープンAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)基盤を使って都市OSと接続できることを実証できたのも、今回の実験の大きな意義です。スマートシティの取り組みを進めている全国の自治体にとって、この仕組みの導入イメージがつかみやすくなるのではないでしょうか。
日本社会の新しいベースモデルは会津で形作られる
中村 オープンなAPI基盤に接続して市民IDと地域データを連携させることは、スマートシティにとって重要な価値の創出につながります。
音喜多 おっしゃる通りです。市民IDが構築されていることや、市民の理解があることは会津若松市がスマートシティにおいて全国をリードしている証拠です。これからIDシステムを作ろうと構想している自治体にとって、会津モデルは間違いなく参考になるでしょう。
「データをどのように活用するのか」をオープンにしながら、データ提供者である市民にオプトインで承諾をいただき、購買履歴や行動履歴、診療履歴を収集する。データの委託先である「地域の推進協議会」が取り組みを主導し、行政はより良い市民サービスの実現に向けた政策決定に活用する。そんな未来社会が会津若松から始まっているのです。
そうしたことに9年前に気付き、ここまで推進してこられた会津の方々には感服します。
中村 デジタル感度の高い市長のリーダーシップの下り、市役所や会津大学、地域企業・団体関係者の連携による賜物です(第26回参照)。データを活用した地域の課題解決、地域の未来のために「データを地域に落とす取り組み」を実証したのは会津若松のプロジェクトが全国でも唯一ではないでしょうか。
GAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple)といわれる先端IT企業も、いまでは“地域密着”をうたい、住民のデータをいかに取得するかに知恵を絞っています。世界で最も先行した取り組みを“市民中心”で進めているのが日本の会津地域です。今回、地域経済活動の根幹である決済に踏み込めたのは、本プロジェクトの意義深いところです。
音喜多 TISとしては、スマートシティ領域では新参者ですから、参加へ踏み切るには実は勇気が要りました。
中村 あらゆる企業がトランスフォーメーションの真っ最中です。ビジネスも20世紀モデル(企業主導)と21世紀モデル(市民主導)が当面は混在し、ときに衝突するかもしれません。摩擦が大きすぎれば変革は止まってしまいますが、決済領域のプロであるTISが踏み切るという意思決定をされた。決済に付随する新しい付加価値をきっと創造されると期待しています。
音喜多 当社でも喧々諤々の議論があり、意思決定がすんなりと進んだわけではありません。私たちは、この方向性が正しいと信じていますが、最終結論は市民や国民が出すものです。日本社会の「新しいベースモデル」がこの町から生まれる予感がします。
そのなかでTISも、会津では「AiCT入居企業」として市民に認知され、この町に溶け込みつつあるように感じます。会津のプロジェクトルームに勤務する約10人のTIS社員は、仕事をますます楽しめているようです。
中村 会津若松では、新しい地域通貨の実証を会津大学とソラミツがブロックチェーンを使って大学内で進めています。地域通貨にも会津財布で対応し、スーパーシティの枠組みでの実装を検討していきたいですね。
中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)
アクセンチュア アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同代表。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。
現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。