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決済アプリ「会津財布」のデータと市民IDをオープンAPIで連携【第31回】

TIS 執行役員ジェネラルマネージャー 音喜多 功 氏に聞く

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2020年8月24日

中村  音喜多さんご自身が地方創生に情熱をお持ちのようです。

写真2:アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括 中村 彰二朗

音喜多  私は地方出身なこともあり、強い動機を持って取り組んでいます。地方自治体が直面している厳しい現状に対し、自分たちがインパクトのある貢献ができていないということには、忸怩たる思いを募らせていました。

 自分自身が「地域貢献の可能性」を探っていたときに、会社のアジェンダに地方創生が入ってきたことは偶然とはいえ、一種の必然だったのかもしれません。なぜなら「地域の発展」こそが「日本の成長」とイコールの関係にあるからです。そのための価値をTISが積極的に出していくべきだという信念もありました。

市民のデータを地域で活用するために「都市OSとの連携」が重要

中村  音喜多さんと私が出会ったのは3年前、TISの中計がスタートした頃ですね。

音喜多  そうです。中村さんが代表理事を務める一般社団法人のオープンガバメント・コンソーシアム(略称OGC)での会合が最初の出会いでした。TISは正会員になっています。

 内閣府のSIP a-2の公募では、TISが培ってきたキャッシュレスアーキテクチャーを活用できる機会と考え、共同エントリーに手を挙げました。

 実証実験のパートナーとして、会津地域の中核病院の1つである竹田綜合病院で実施したいと相談し、ご快諾いただきました。同病院の理事長である竹田 秀 先生は、会津地域スマートシティ推進協議会の理事長でもあります(第18回参照)。

中村  スマートシティは「地域主導」の取り組みですから、「地域のプレーヤーの参画」が大前提になります。市民がオプトイン(市民が同意・承諾した場合にのみデータを提供する)でデータを提供し、提供されたデータを都市OSの基盤に、しっかりと集めることは市民中心のスマートシティの核といえる要素です。

 SIP a-1事業では、スマートシティの標準化を目指して、都市OSの定義づけに取り組みました(第23回参照)。まさにスマートシティの心臓部ともいえる部分です。キャッシュレス決済は、そこに隣接するコア領域の1つであり、標準化の仕組みと非常に近い関係にあります。キャッシュレス決済の実証をスマートシティ協議会のメンバーと共に進めたいと考えていました。

音喜多  今回のプロジェクトは、キャッシュレス化によって、病院の利用者(患者など)が診察後に、会計や薬の処方で待つことなくシームレスに動けるというUX(ユーザーエクスペリエンス)の実現を目指しました。病院の会計処理でQRコードを使う、全国でも例のない実証実験になりました。

中村  竹田綜合病院での会津財布を使った決済の実証実験への手応えは、いかがでしたか?

音喜多  実証実験では、来院者が診察を終え、アプリ決済でスムーズに帰宅できるまでの実際のデータをしっかりと取れました。得られた知見として一番大きいのは、スマートシティの根幹である都市OSの基盤にデータを集積し、利用につなげられる点を実証できたことでしょう。

 診療データはプライバシーを含む個人情報であるため、扱いが非常にセンシティブです。オプトインで事前承諾いただいた市民に限ってデータを受け取るには、どのような準備や調整が必要か、合意やコンセンサスを取得するためのプロセスやコスト、人的パワーがどの程度かかるのかなど、実証実験を行わなければ確認できない情報がしっかり得られました。

 利用者へのアンケートでは、「個人データを収集・分析して、社会全体の利便性向上の仕組みに利用することについてどう思うか?」といった質問に対し、約6割の市民が「利便性が高まるのであれば積極的にデータ提供しても構わない」と答えています。残り4割は「特に問題を感じない」といった結果でした。

 データの取り扱いに不安を持つ市民が、もっと多いかと予想していましたが、肯定的な意見が予想以上に多く集まりました。