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Industrial IoTが扱う「ファストデータ」の特性【第1回】

坂元 淳一(アプトポッド代表取締役)
2017年11月30日

産業シーンにおいては以前からM2M(Machine to Machine)という世界観があった。M2Mは、今のIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の世界観において、基本的な機能要素は満たしてきた。ただIoTの可能性が広がる一方で、新たな課題も続々と生まれている。今回は、産業IoTが扱うデータの特性を考えてみたい。

 M2M(Machine to Machine)は、コンピューター同士が通信しあって実現する自動化システムである。いわば垂直統合型に制御を自動化するための仕組みで、その多くはLANや閉域網といった閉鎖的なネットワーク上で運用される。これに対し産業IoT(Internet of Things:モノのインターネット)は、インターネットの世界観そのままに、自動化をオープンで水平統合型の概念にまで発展させたモデルだといえる。

 モバイルインターネットやクラウドインフラ、エッジデバイスの進化によって、これまでなかったシチュエーションや、つなげていなかったモノがつながるようになった。結果、特定用途で閉鎖的で、機械同士がデータをやり取りするM2Mシステムに対し、産業IoTは、同時多発的に発生する様々なモノやコトをつなげるシステムに昇華したと解釈できる。複合的なモノやコトから得たデータをビッグデータとして蓄積・分析することで、新たなアプリケーションやビジネスへ発展させる(図1)。

図1:垂直統合型のM2Mに対し、IoTは水平統合により新たな価値を創造する

産業機器がはき出す「ファストデータ」の威力

 自動車や重機・建機などの産業シーンでは、IoTがバズワード化する以前からテレマティクスシステムなどに代表されるように、メーカーが自社製品に通信可能なエッジシステム(TCUなどの通信ゲートウェイ)を搭載し“コネクテッド化”を図ってきた。エッジシステムを通して製品の制御/センサーネットワークから得たデータをサービスサーバーにアップロードする仕組みが代表的だ。

 全製品にエッジシステムを組み込めば、自社製品のフィードバックデータを自動的にビッグデータ化し、統計的な分析によりサービス開発やビジネス創出が可能になる。そのため、様々な分野で産業機械のコネクテッド化が進められているわけだ。だが、そもそも制御/センサーネットワークそのもののデータ間隔が非常に高速で大量だという課題がある。

 たとえば、量産自動車の制御ネットワーク上では、100Hzレベルの制御データが無数に行き交っている。制御/センサーネットワークによっては1000Hzレベルの信号も珍しくはない。こうした信号をデータとしてとらえたものを「ファストデータ」と呼ぶ。

 ファストデータを無尽蔵にそのまま伝送し処理できれば、機械装置のありのままの状態をデータとして把握でき、様々な利用価値が生まれる。しかし実際には、データを処理するエッジシステムのコストや、モバイル通信を利用する場合には、その帯域幅やコストが問題になってくる。

 特に通信コストおよびサーバーの運用コストは、コネクテッド化した製品の価格やサービス料金で消化するにも限界もある。そのため、エッジシステムのパフォーマンスや通信データ量をできる限り抑えようとする傾向が生まれる。

 具体的には、エッジシステムでのリサンプリングやフィルタ処理によりファストデータを加工し、必要最低限までデータをそぎ落としたうえで、状態把握や稼働監視、通知サービスなどに展開するサービスシナリオが多い。その際、エッジシステム側から回収するデータは1秒〜数分に1回など、比較的緩いサンプリングデータを使用しているのが現実である。