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福岡県発のテクノロジーで「IoT社会」実現へ【福岡県IoT推進ラボ】

小野 昌志(福岡県商工部新産業振興課IoT推進班)
2019年2月22日

ロボット、半導体、mruby(軽量Ruby)などハードウェア/ソフトウェア技術が集積する福岡県。「ロボット・システム産業振興会議」や「Ruby・コンテンツビジネス振興会議」など産学官連携プラットフォームの活動も活発だ。こうした強みを活かし、IoTに関連した新製品/サービスの創出に取り組むのが福岡県IoT推進ラボである。同ラボの取り組みを紹介する。

 福岡県には、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)を支えるハード技術、ソフトウェア技術を持つ、優れた企業が数多く集積している。たとえば、自動車産業が、その1つ。県内に500を超える関連企業が集積し、自動車製造業の製造品出荷額は2014年実績で約1兆9000億円と国内第3位である。

写真1:四季折々にさまざまな顔を見せる福岡県

 ロボット製造業も盛んだ。世界有数の産業用ロボットメーカーである安川電機が立地していることもあり、福岡県のロボット製造業の製造品出荷額は863億円と全国2位に位置し、そのシェアは全国の約2割を占める。

 「産業のコメ」と言われる半導体産業も元気だ。国内シェアの約25%を占め、製造品出荷額が1兆4000億円を超えることから、九州は「シリコンアイランド」とも呼ばれている。その4割超に相当する約400社が福岡県に集積している。

 加えてソフトウェア産業の集積も進む。特に、県が推しているプログラミング言語「Ruby」を中心としたソフトウェア企業が集まり、全国有数のRubyコミュニティが育っている。

 Rubyは、まつもとゆきひろ氏が開発した国産のプログラミング言語。習得が容易で生産性が高いことから、スタートアップ企業のWeb系システム開発で人気が高い。このRubyの良さを組み込みソフト分野でも使用できるよう、経済産業省の支援を得て福岡県では、組込み用プログラミング言語「mruby(軽量Ruby)」も開発した。

 mrubyは、性能が高くないCPUや少ないメモリーでも動作することから、IoTとの親和性が高く、注目を集めている。2019年4月には世界各国のRuby技術者が参加する最大の国際会議「RubyKaigi」が福岡県で開催される予定である。

ニーズを掘り起こす全庁組織「福岡県IoTプロジェクト推進会議」

 これらIoTにつながるハードウェア/ソフトウェア技術を持つ企業が集積している“強み”を活かし、これまでにない新しいIoT製品/サービスを創出するために始動したのが福岡県IoT推進ラボである(写真1)。少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、各産業の担い手不足、熟練技術者のノウハウの継承といった地域課題の解決策として、IoTへの期待は高い。

写真2:「福岡をIoTの先進地域に」と意気込む福岡県IoT推進ラボのスタッフ

 先進的かつニーズに基づいたプロジェクトを“福岡県発”で推進するための工夫もある。その1つが、ニーズを掘り起こすための「福岡県IoTプロジェクト推進会議」だ。2017年に副知事をトップに、すべての知事部局、教育委員会、警察本部からなる全庁組織として設立した。

 推進会議は“プロジェクトの実施ありき”ではなく、まずは各部局がニーズを掘り起こし、そこにIoTを活かすことで、課題解決や行政サービスの向上を図るための取り組みだ。掘り起こしたニーズは、IoTインテグレーターを交えたワークショップを開催し、プロジェクトとして具体化させていく。

 プロジェクトの実施においては、県内の中小企業が持つハードウェア/ソフトウェア技術を組み合わせて展開している。結果、県内企業によるIoT関連製品/サービスの商品化が着実に進んでいる。

 こうして立ち上げたプロジェクトを、ロボット・システム産業振興会議やRuby・コンテンツビジネス振興会議と、福岡県、福岡県産業・科学技術振興財団による推進体制が支える。

 ロボット・システム産業振興会議とRuby・コンテンツビジネス振興会議は、IoTプロジェクトを実施する際の中核的組織であり、産学の会員が持つ技術を活かし製品/サービスを開発する。

 福岡県としては、IoTプロジェクト推進会議によるニーズの掘り起こしやIoTプロジェクトの実施のほか、マッチングや市場開拓支援、人材育成などIoT振興に向けた総合的な企画・調整を担当。福岡県産業・科学技術振興財団が、国や県の研究開発プロジェクトに携わってきたノウハウや、企業・大学等とのネットワークを活かし、県と一体的にプロジェクトを推進する。