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  • 本当にビジネスの役に立つSAP流デザインシンキングの勘所

いま「デザインシンキング」を語る意味【第1回】

原 弘美(SAPジャパンソリューション統括本部イノベーションオフィス部長)
2018年12月5日

 最初の切り口である「ビジネスとデザインシンキング」を考える前に、まだデザインシンキングに馴染みのない方も想定し、まずは「デザインシンキングとは何か」について説明しておきましょう。

デザインシンキングを構成する「3つのP」

 「デザインシンキングを構成するものを簡単に説明してください」とよく問われますが、その際のSAP流の答は「PEOPLE(人)、PROCESS(プロセス)、PLACE(場所)」です。これらの頭文字をとって「3つのP」などとも言います(図1)。

図1:SAP流デザインシンキングの構成要素は「PEOPLE(人)、PROCESS(プロセス)、PLACE(場所)」の“3つのP”

PEOPLE:多様な専門性を持つヒトが共同し、対象となるヒトへ深い共感を持つことから気づきを得る手法であること

PROCESS:チームによる検討を支えるプロセスが提案されていること

PLACE:創造的プロセスにおける環境(物理的な空間が心理面に与える影響)が重要であること

 これら3つのPを活用し、課題の発見と課題の解決を反復しながら、解決策をより良くデザインする。これがデザインシンキングの概観です。

 ただ、この説明はシンプルすぎるきらいもあります。実は、こうした構成要素を上手く機能させるために、もう1つ重要なことがあります。それは、デザインシンキングの「マインドセット」です。

 マインドセットという言葉に、ストレートに合致する日本語は、なかなか見つかりません。説明的に表現すれば、「経験や教育によって形作られる価値観や暗黙の了解事項であり、そうしたものに基づく行動」になります。

 国や民族の違いによって自然発生的に形成される価値観や行動様式のように、デザインシンキングの世界にも、それを成り立たせるためのマインドセットがあるのです。「郷に入れば郷に従え」という故事があるように、まさにデザインシンキングという国の“郷に従う”ことが、この手法を使うためには重要なのです。

経験を積んだ社会人ほどマインドセットの切り替えが難しい

 デザインシンキングのマインドセットには、たとえば、物事を批評的に見る態度を表す「Yes、but・・・(なるほど、しかしですね)」ではなく、「Yes、and・・・(なるほど!では、これはどうでしょう)」の態度でいよう、というものがあります。否定する態度を抑制し、相手の意見を受け入れた上で、その考えを発展させてみるということです。

 しかし、社会人として日々、正しい判断を素早く下す訓練を重ね、経験を積んでこられた方々にとっては、そう簡単なことではないようです。言葉で「YES」と言いながらも、心理的には「NO」を抱えているとき、次の”and”を切り出すその表情は、心の葛藤を表してなんとも複雑です。こうした矛盾に対し冷静になれ、心の葛藤から自由である人も、思考停止の罠にははまりがちです。

 たとえば、白タクについて議論しているとすれば、「白タク?そんなの駄目、ニーズがないよ」というのではなく、白タクが成立するとしたうえで「誰が利用するだろう」「どんなメリットが提供できるだろう」「何が利用の障害になるだろう」「どんな仕掛けが必要だろう」と考えてみるのです。