- Column
- 本当にビジネスの役に立つSAP流デザインシンキングの勘所
より良い解決策に向け課題の理解の正しさを反復して確認する【第2回】
プロトタイプを媒介に解決策を発展させる
課題の解決の領域では「着眼点の設定」で定義された課題に対するアイデアを創出し、プロトタイプを作り、ユーザーテストを実行します。
アイデア創出フェーズ
課題解決のためのアイデアを出し合います。過激なアイデアを敢えて出し合ったり、極端な制約や前提条件の中でアイデアを出し合ったりするなど、よくあるアイデアに陥らないための工夫を施す必要もあります。
なお、上記のように、デザインシンキングのプロセスやマインドセットを理解し、チームの活動を支援するのが「デザインシンキングコーチ」の役割です。
プロトタイプ(試作品)のフェーズ
アイデアを形にします。プロトタイプはアイデア伝達のための媒体です。アイデアを対象ユーザーに体験してもらい、その利用価値を理解(想像)してもらうことで、フィードバックを得るのが目的です。経験したことがない体験について意見を求めるには、より具体的な形を経由するほうが、文字や言葉で想像させるよりも伝わりやすいためです。
プロトタイプというと、完成品に近いものを想像される方があるかもしれません。ですが、デザインシンキングでは、素早く、少ない投資で作れるものが良いのです。伝達手段なのですから、ダンボールや紙で作成したり、人がロボットになりきって演技したりといったもので十分なのです(写真1)。
テストフェーズ
ユーザーからフィードバックをもらいます。評価や判断のためというよりは、プロトタイプを利用してユーザーとコミュニケーションを取るフェーズと、とらえるほうが実態に近いと思います。絵や簡単な模型によってアイデアを伝達し、課題のとらえ方の正しさや解決策の価値を見極めます。
テストの結果をうけ、観察と着眼点の設定をやり直したり、アイデア創出を繰り返したりします。これらのフェーズを反復することで、より優れたデザインの解決策へと発展させます。
プロセスを柔道などの“型”同様に身に付け実践に生かす
以上がデザインシンキングの基本的なフェーズです。いわば柔道などの“型”のようなものです。別の言い方をすれば、プロセスに含まれる要素と、その流れをわかりやすくするために分解された見取り図のようなものです。
隣接する2つのフェーズを何度も行き来することもあります。プロトタイプに至っては「言うのではなく、見せる」というデザインシンキングのマインドセットを実践する仕掛けとして、すべてのフェーズに取り入れても構いません。
実際の適用では、ワークショップやプロジェクトの目的、検討期間に合わせ、どのフェーズに時間を割くのか、どのようなディスカッションツールを使うべきかをデザインシンキングコーチが検討し、デザインします。
このようにお膳立てされたデザインシンキングの実践の場に初めて参加すると、その背後にあるプロセスやマインドセットより、利用するツールに目を奪われがちです。結果、「ペルソナを設定した」「カスタマージャーニーで検討した」という断片的な情報が共有されやすく、それらのツールを使うことこそがデザインシンキングの実践であるといった誤解すら招いていると感じます。
ツールは、検討を効果的に、効率的に実現するための促進剤であっても、デザインシンキングそのものではありません。ツールが使える人がデザインシンキングの実践者であるというのも、また誤解であると思うのです。ここまで読み進めていただいた皆様には、その違いをご理解いただけるのではないでしょうか。
第1回と第2回でデザインシンキングそのものについて説明しました。次回からは、ビジネスや企業とデザインシンキングの関係性について論じていきます。
原 弘美(はら・ひろみ)
SAPジャパンソリューション統括本部イノベーションオフィス部長。Hasso Plattner Institute D-School認定デザインシンキング・コーチ。SAPジャパンでは、ハイテク業界、食品消費財業界、製薬業界への製品展開、日本向け機能の開発、顧客提案支援などに従事。ビジネスプロセスマネージメントやマスタデータ管理などの顧客提案担当を経て、SAP が対外的にDesign Thinking with SAP を展開しはじめた2013 年より、SAPジャパンにおけるDesign Thinkingの展開、顧客提案における活用を推進。2016年よりSAPアジア・パシフィック地域Design Thinking with SAP リードも兼任。中央大学法学部卒業。