- Column
- 本当にビジネスの役に立つSAP流デザインシンキングの勘所
より良い解決策に向け課題の理解の正しさを反復して確認する【第2回】
第1回では、今、改めてデザインシンキングの価値を考えるための切り口として「ビジネスとデザインシンキング」「企業とデザインシンキング」「ビジネスマンとデザインシンキング」の3つをお示したうえで、デザインシンキングの構成要素である「PEOPLE(人)、PROCESS(プロセス)、PLACE(場所)」を紹介しました。今回は、これらの3つのPのうちPROCESS(プロセス)について、ご紹介します。
デザインシンキングのプロセスは、課題を発見する領域と解決策を提示する領域を行き来(反復)することで、より良い解決策のデザインに収束させていくという考え方に沿って作られています。
建築やファッション、Web UI(ユーザーインタフェース)など、およそ“デザイン”に関わる人たちの仕事では、まずデザインするモノを利用するヒトを想定し、隠れた課題やニーズに対する理解を形にします。そのうえで、その理解が正しいかどうかをユーザーに確認するということを反復します。
この方法を、一般的な課題の解決に適用できるようにしたものがデザインシンキングです。そのため、進め方は、同じ過程をたどります。すなわち、人に着目して要求の本質を探り、その理解内容や解決方法を形にする。それをユーザーに問うことで課題認識の正しさと、解決策の利用価値の大きさを繰り返し確かめる。これがデザインシンキングの基本プロセスです。
デザインシンキングをパッケージ化して活用している企業や団体はいくつもあります。独SAPもその1社です。それぞれにフェーズの表現方法は、さまざまですが、その本質は同じです。以下では、公共性が高いものとしてHasso Plattner Institut D-School(HPI D-School)が採用しているものを例に、フェーズを順を追ってご紹介しましょう。
まずは課題をより具体的に正しく理解する
課題発見の領域では、新しい解決策を設計すべき対象を「理解」し、「観察」から得られた洞察をもとに「着眼点の設定」を行うことで、課題解決の切り口を見いだします。
理解のフェーズ
参加メンバーが「どんな課題を解こうとしているのか」の認識を合わせたうえで、課題を取り巻く状況全般の理解に努めます。たとえばテーマが「新しく入社したメンバーが、1日でも早く、1人で働けるようにするには?」であれば、そのテーマが設定された文脈を理解するための調査を実施します。
依頼主がいる場合は、依頼主にインタビューし、テーマ設定の背景情報を探ります。そして「新しく入社したメンバー」としては、どんなヒトが想定できるか、彼らはどんな状況下に置かれており、どんな気持ちでいると想定できるかを議論します。「一人で働ける」というのはどういう状態かなども議論の対象です。さらに、次フェーズの「観察」に向けて、誰を、何を観察すべきかも議論します。
観察のフェーズ
別名「共感ワークのフェーズ」とも呼ばれます。別名が示すとおり、インタビューや観察を通じて、解決策を提供したい相手、対象ユーザーに対する共感を深め、検討に役立つ情報を収集することが目的です。共感を深めることで、隠れたニーズや課題につながる事象を察知するアンテナの感度や精度を高めるのです。
ちなみにこのフェーズは、ビジネスの現場でデザインシンキングを実践しようとすると、ハードルが高いフェーズの1つです。こうした実際の適用における課題については、別の回でお話したいと思います。
着眼点の設定フェーズ
観察までのフェーズで得られた情報から意味を見いだし、課題解決の着眼点を設定します。最初のテーマ設定を、より焦点が定まった課題定義にリフレーム(再定義)するのです。
具体的には、「新しく入社したメンバーが、1日も早く、1人で働けるようにするには?」というテーマは、たとえば「転職で入社したばかりの26歳になる佐藤美樹さんは、自分の得意分野でチームに貢献することで、メンバーとして認められたい」など、対象ユーザーを起点とした課題が設定できます。
ここでの「佐藤美樹さん」のように、典型的な対象ユーザーを表す人物像として、架空の人物(ペルソナ)を設定します。対象ユーザーを特徴づける典型的な属性(年齢、年収など)、性向や行動様式(オンラインの利用度が高い、効率性を重視する、など)を定義し、名前をつけて記号化することで、特定のユーザー像をチーム内で共有します。