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社会課題の解決にAIは貢献できるのか

Googleの「Solve with AI」に世界の先端事例を見る

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2019年8月15日

人類を守る1:がんの発見、糖尿病網膜疾患の診断=Google Health

 医薬業界はAIの活用が期待されるとともに、すでに多くのAIによる課題解決の取り組みが知られている。Google Healthは、タイやインドにおいて、画像検査データを分析した肺がん因子の特定、リンパ組織サンプルの検査による乳がんの特定、さらに糖尿病網膜疾患の検出に網膜画像を用いて素早く発症リスクの高い人を抽出するモデルなどを開発している。

写真5:Google Healthのプロダクトマネージャを務めるLily Peng氏

 肺がんについては、放射線医の診断と比べて、偽陽性(陰性を陽性と誤診)が11%減少し、かつ陽性を5%多く検知した。乳がんについては、病理学者の検出率が73%であるのに対し、95%のがん病変を検出できた。糖尿病性網膜疾患も、3年前のシステムは一般の眼科医レベルの検出率だったが、現在は網膜専門の眼科医と同等の精度まで学習が進んでいるという。

 医療現場には多くの画像がデジタルデータとして存在する。しかし、それらを医師が1枚1枚入念にチェックする時間が持てない。撮影した画像をそのままディープラーニングにかければ、大量の画像から危険因子を発見できる。

 もちろんAIにも誤検知はある。だが、AIが検知した候補画像に対してのみ医師がチェックすれば良くなるため負担は大幅に減らせる。AIと医師との連携により検知率が大きく改善している例も報告されている。

人類を守る2:洪水の予測=Google

 近年、世界各地で大きな被害をもたらしている自然災害の1つが洪水だ。Googleでは、洪水が発生した際の水の流れ方をシミュレーションするために「
Hydraulic Model」と呼ぶ地形データをAIを使って開発している。

写真6:GoogleでAIソフトウェアのエンジニアリング マネージャを務めるSella Nevo氏

 Google EarthなどGoogleが地形データを収集しているのは良く知られる。地形データは年々高解像度化が進み、世界津々浦々の詳細な地形データが得られるようになっている。

 だが、洪水の分析には高度差がわかるデータが必要になる。ステレオカメラなどの技術進歩により可能にはなってきているが、まだまだ不十分という。水の流れに関係する橋や堤防といったデータは残しながら、それ以外の建物などの情報を削除する必要があるためだ。従来は手作業でデータを調整していたが、観測地域が広がれば当然追いつかなくなる。

 そこで、機械学習によって不要な部分を省略した「洪水分析専用地図」を作成しシミュレーションすることにした。これにより、気象データなどを基に迅速な被害分析が出せるようになり、近隣住民のスマホに警告を通知するなど、避難計画や救助体制の準備などに生かされている。

人類を守る3:聴覚や言語障害を持つ人の支援=Google

 難聴者、あるいは脳卒中やALSといった神経の病気から言語障害を持った患者が、健常者との会話の輪に入ることは極めて難しい。そうした対話を可能にするための開発にもAIが利用されている。

写真7:GoogleでAIのプロダクトマネージャを務めるSagar Savla氏

 難聴者を対象にしたスマホアプリが「Live Transcribe」。音声をリアルタイムにテキスト化するもので、会話をクラウドに送り、音声を解析し、話されている言語によってテキスト化するまでを、ほぼリアルタイムに実行する。今、どの言語で何が話されているのかをテキストとして読める。70言語に対応し、複数の話者がいれば、それを区別してテキストに変換する。

 言語障害を支援するのが「Project Euphonia」だ。言語障害者が発する声にも対応した音声認識システムである。一般には明瞭な音声にのみ対応しているため、たとえば「Google Home」などのAIスピーカーも、言語障害者の言葉には反応しない。

 Project Euphonia では、Googleのリサーチャーで自身も聴覚障害を持つDimitri Kanevsky氏が、自分が発する声に対応した音声認識モデルの開発に協力した。Googleでは声を発せられない人のために、視線の移動などで「はい/いいえ」を意思表示できるシステムも研究中である。