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  • スクラムで創るチームワークが夢を叶える

部分導入ではなくパイロットチームから全社に広げる【第4回】

和田 圭介(Scrum Inc. Japan Senior Coach)
2020年3月16日

スクラムの部分的導入は大きな摩擦を生み出す

 ここで改めて、スクラムを組織に、どのように導入するか考えてみよう。スクラムは、行動パターンや構造であり、出来事や構造に大きな影響を与える。そのスクラムという行動パターンのみを会社の一部に部分的に導入したらどうなるだろうか?

 結論から言えば、既存組織の構造やマインドセットと大きな摩擦を生み出す可能性が高い。

 現在の日本では、スクラム専用の小さな部門を作り、その中だけでスクラムを実践するケースが多い。短期的には成果を生むかもしれない。だが、時間が経つにつれ、既存組織の構造やマインドセットと、スクラムを導入した部門との摩擦が大きくなり、長期的には既存組織からスクラムそのものに対する懐疑的な見方が生まれる。部分的にスクラムを導入した部門からも既存組織との摩擦による疲弊が現れる(図2)。

図2:スクラムの部分的導入の問題点

 こうした摩擦を避け、持続的なイノベーションを生み出すスクラム組織になるためには、既存組織とは別のマインドセット・構造・行動パターンで運営するスクラム組織を作り、志願するチームから順にスクラム組織に組み入れる必要がある。具体的には、以下のステップを踏む。

Step1 : リーダーシップのスクラムチームを結成

 スクラム組織をつくる最初のステップは、リーダーシップのスクラムチームの結成である。結成されたリーダーシップのスクラムチームは、「なぜ自分たちの組織が変わらなければならないのか」「どのように組織になるべきか」を全身全霊で語り合い、新たなスクラム組織のビジョン・ゴールを設定する。

 そのゴールを実現するための組織変革のバックログを策定する。バックログには、パイロットチームの募集、パイロットチームのトレーニングやコーチング、スクラム組織のための新たな承認プロセスや評価プロセスの策定などが含まれる。

Step2 : リファレンスモデルの確立

 多くの場合、リーダーシップのスクラムチームの配下に社内のアジャイル専門家やScrum Inc.のような社外のスクラムコーチから構成されるアジャイルプラクティスを配置する。

 アジャイルプラクティスのトレーニングやコーチングのもと、リーダーシップのスクラムチームと、新たに志願したパイロットチームがスクラムを学び、スクラムの実践を開始する。

 リーダーシップチームとパイロットチームのスクラムの実践を通じて、プロダクトオーナーとスクラムマスターのサイクルを確立し、本格展開までに必要な最小限の構造の変革を実施する。多くは承認プロセスや評価プロセスの変更である。

Step3 : スクラム組織の拡大

 最小限の構造変革が完了したら、それまでのスクラム実践の学びをリファレンスモデルにして、新たにスクラムを開始するチームを募集する。手を挙げたチームからアジャイルプラクティスがトレーニングやコーチングを提供し、スクラム組織を拡大していく。

 並行して顧客からの学びやチームからのレポートに基づき、リーダーシップチームの変革のビジョンやゴールを都度、見直し、同時に組織の構成や構造も変革させる。

 スクラム組織への変革は“長い旅”になる(図3)。行く手には、人材難や一部チームのモチベーショの低下、既存組織との軋轢など多くの困難が待ち受けている。リーダーシップの決意、ビジョンが、変革の旅の道しるべになる。

図3:スクラム組織への変革の旅。パイロットチームから始めリファレンスモデルを作成し全体に拡大していく

 次回は、組織におけるスクラム導入のステップの詳細と気をつけるべきポイントについて解説する。

和田 圭介(わだ・けいすけ)

Scrum Inc. Japan Senior Coach。大学卒業後、KDDIにおけるIoTビジネス・クラウドビジネスの立ち上げ、トヨタ自動車への出向などを経て、2019年4月より現職。KDDIにおけるスクラム導入、プロダクトオーナーとしての経験を生かし、主に大企業におけるスクラム導入を支援。スクラムの普及を通じて、日本中の働く人々が幸せになり、日本から新たなイノベーションが次々と生み出されるようになることを目指している。