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  • スクラムで創るチームワークが夢を叶える

顧客にフォーカスした新たな組織構造をデザインする【第6回】

和田 圭介(Scrum Inc. Japan Senior Coach)
2020年9月10日

(2)スクラムチーム横断の調整の仕組み

 スクラムチームは機動性に優れる一方で、組織的な考慮がなければ、常に孤立するリスクを抱えている。職能横断のチームが無数に生まれれば、プロダクトとしての一貫したアーキテクチャーや会社共通で新たな技術を導入することが困難になるリスクが生まれる。

 こうしたリスクを解決するのが、スクラムチーム横断の仕組みであるQC活動と「ファンクションオーナー」の設定である。

 QC活動は、製造業の品質問題の解決の仕組みだ。スクラムにおいては、スクラム・オブ・スクラムやスクラム・オブ・スクラム・オブ・スクラム内に、同じ専門性を持つメンバー同士の学びの共有や共通課題の解決を目的に設定する。

 QC活動では、プロダクトオーナー、スクラムマスター、開発チームの単位に分かれて実施する。開発チームはさらに、UX(User Experience:顧客体験)デザイナー、フロントエンドエンジニア、バックエンドエンジニア、クラウドアーキテクト、QA(品質管理)などの専門分野ごとに分かれる。

 ファンクションオーナーとは、それぞれのQC活動に設置される専門分野のエキスパートのことである。QC活動や1on1を通じて、チームメンバーのスキルの向上や学びの共有、チームを横断する共通課題の解決を促進していくことに責任を持つ(図2)。

図2:ファンクションオーナーの役割

 スクラム導入時にまず実施すべきは、スクラムマスターとプロダクトオーナーのQC活動の実施である。導入初期のスクラムマスターQC活動のオーナーは、エクゼクティブアクションチームとともに会社の組織変革を実践するアジャイルプラクティスが務める。

 開発チームのQC活動は、チームのボトルネックになっているスキルを中心に少しずつ拡充していくのが良いだろう。

(3)明確で柔軟な会社の方針管理の仕組み

 多くの役割別階層組織が採用している方針管理の仕組みは、年間方針を前年度に策定し、その後、部門単位に進捗を管理していく。役割ごとに分かれている組織において会社の方向性を揃えるためには非常にすぐれた制度である。

 しかし、ビジネスとITが一体となったスクラムチームにとっては、年間で決められた方針や、その計画の進捗を管理していくことは、チームが得た顧客からの学びを会社方針に素早く反映することを妨げてしまう可能性が高い。

 スクラムの導入と同時にOKR(Objectives and Key Results:目標と主要な結果)を導入する企業が多いのは、まさにこのためだろう。OKRと従来の方針管理の仕組みには図3に示すような違いがある。

図3:「OKR+スクラム」と従来の方針管理との違い

 OKRそのものを取り入れる必要はない。だが変革のリーダーは、リーダーシップの戦略的なビジョンをチームに素早く伝達し、顧客からの学びを素早くビジョンに取り入れるために、従来の方針管理のどの部分を残し、どの部分を改善していくかを考慮する必要がある。