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  • スクラムで創るチームワークが夢を叶える

顧客にフォーカスした新たな組織構造をデザインする【第6回】

和田 圭介(Scrum Inc. Japan Senior Coach)
2020年9月10日

(4)できるだけ早く意思決定をするための仕組み

 多くの組織、特にIT部門では、年間のプロジェクトと予算の計画が前年度の方針管理と並行して、決められることが多い。各部門がプロジェクト単位で必要なリソースやROI(Return On Investment:投資対効果)計画を立て、ビジネス・IT・ファイナンス部門での調整のうえ合意され、組織運営のベースになる。

 プロジェクトの実行にあたっては、さらに詳細なプロジェクト計画を立て、組織の横縦の、さまざまな会議体で、計画の内容(顧客価値・ROI・システムのアーキテクチャーなど)を吟味し、経営層の承認を経て可決される。合意を得るのが大変なだけに一旦可決されると大掛かりな変更は難しい。

 スクラムチームの機動性を活かすためには、こうした意思決定の仕組みにも大幅なメスを入れる必要あるだろう。

 まず、年間ではなく、少なくとも四半期ごとに優先順位を決める必要があるだろう。そして今後のROI計画だけでなく、リリースしたプロダクトの累積ROIや顧客評価、実際の利用状況も優先順位付けの判断に組み込む必要があるだろう(図4)。

図4:従来組織とスクラム組織の意思決定の仕組みの違い

 明確な組織の優先順位は、組織から無駄な会議や政治を排除し、スクラムチームの機動力を格段に向上させる。

(5)チームのスキルとモチベーションの向上を促進する人事評価の仕組み

 最後に、人事評価の変革についても変革の方向性を指し示したい。

 従来の人事制度は、上司が一方的に部下の目標を設定・管理する垂直方向のため、スクラム組織にはフィットしない。

 スクラムチームのメンバーやQC活動のメンバー、プロダクトオーナーであれば、スプリントレビューに呼ぶ社内のステークホルダーや緊密な顧客を含む360度評価が有効であろう(図5)。チームメンバーだけの360度評価では、公平性にかけると思うなら、ファンクションオーナーに最終的な判断を任せるのも有効だ。

図5:スクラム組織の評価制度

 ボーナスについては、スクラムチームやスクラム・オブ・スクラムがリリースしたプロダクトが企業にもたらした価値に応じて、一律のボーナスを支給することもメンバーの協働とエンゲージメントを高める。

付箋でスクラム組織のMVPを見える化する

 上記のポイントを踏まえ、実際の変革のバックログを作成する際にお薦めしたいのが、付箋を使った方法だ。

 横軸に変革する組織構造の種類を、縦軸に変革後のあるべき姿をバックログとして付箋に記入する。そして、初期のパイロットプロジェクトを中心としたリファレンスモデルの確立までのゴール、部門全体へのスクラム浸透までのゴール、そして会社全体へのスクラム浸透までのゴールと、リリースラインを引いて、スクラム組織のMVP(Minimum Viable Product:リーンスタートアップにおける実用最小限のプロダクト)を見える化する(図6)。

図6:付箋を使った変革のバックログの作り方

 この変革のバックログが、エグゼクティブアクションチームとアジャイルプラクティスのやるべき仕事になる。もちろん、組織の変革が進捗するにつれて、実際のスクラムチームからのフィードバックに基づいて、優先順位を入れ替えたり、新たなバックログを入れたりすることが重要だ。

 次回は、いよいよパイロットチームの選定と立ち上げの実践的な方法について、解説していきたい。

和田 圭介(わだ・けいすけ)

Scrum Inc. Japan Senior Coach。大学卒業後、KDDIにおけるIoTビジネス・クラウドビジネスの立ち上げ、トヨタ自動車への出向などを経て、2019年4月より現職。KDDIにおけるスクラム導入、プロダクトオーナーとしての経験を生かし、主に大企業におけるスクラム導入を支援。スクラムの普及を通じて、日本中の働く人々が幸せになり、日本から新たなイノベーションが次々と生み出されるようになることを目指している。